タブーとらわれず読者目線 特ダネ追い続けた半世紀 葛藤の中「扇情主義」に一線 夕刊フジプレイバック
当時、取材していた佐藤孝仁によると―。
「事件が起きたのは午後1時25分。もう一般紙の夕刊の締め切りが過ぎていたので、現場にはボクと地元紙の記者だけ。そこで事件が起こったんだ」
佐藤はすぐに近くのおみやげ屋さんに飛び込んで叫んだ。「おばちゃん、できるだけの10円玉を持ってきてぇ!」。その店には赤色の公衆電話しかなかった。
「原稿を書いている時間はないので、そら(頭の中で原稿をつくり電話で吹き込み)でいれたよ。10円玉をいくつ入れたか分からない。あっ、おばちゃんに電話代払ってない!」
佐藤は大失態を50年後のいま、気づいたのである。
■昭和~平成 読者の興味は…
「夕刊フジ売り上げベスト10プラス」なる表を作ってみた。1位は「オウム麻原彰晃逮捕」(平成7年5月)。7位には「村井秀夫幹部殺害」(同年4月)とオウム関連ニュースが2つ。その年の1月には「阪神・淡路大震災」が起こっているのだが、意外に順位は低く19位。どういうこと?
いや、もっと引っ掛かったのがベスト10の中に、衆議院選挙や衆参同時選挙に都知事選と、選挙関連ニュースが6つも入っていることだ。そんなに選挙が注目を浴びていたのだろうか。
当時、整理部長を務めていた各務(かがみ)英明は「選挙のときは《お札》を刷っているようだったな」と振り返った。なんでだろう?
当時の選挙は、いまのように即日開票ではなくほとんどが「翌日開票」。夕刊時間帯が勝負だった。夕刊フジには刷り出す時間に合わせてABCの3版があり、一般新聞の夕刊と違ってドンドン新しい情報が入れられる。
サラリーマンたちは家に配達される「夕刊」を待ちきれずに競って夕刊フジを手に取ったのである。なるほど!
夕刊即売紙は読者の全く知らない重大な突発事件より、ある程度予備知識があって、その展開に感心が集まっている方が売れる―という説がある。「オウム事件」が売れたのも「続報」プラス「怖いもの見たさ」の読者心理からといわれている。