甲子園で感染予防ガイドラインで禁止されている大声を出したファンを球審注意の異例事態も場内アルコール販売の矛盾
実は、この試合では、観客の大声のヤジは、まだあった。3回一死から、打席に入った青木が、ルーティンの動きをしていると、「早よ、構えろや!」とのヤジが飛び、その声がもろに耳に入った青木が苦笑いを浮かべるシーンがあった。青木は、この打席でセンターフライに倒れている。 多くの観客がガイドラインを守っているため、ビジターチームであるヤクルトが攻撃する際は、場内がさらにシーンと静まり返り、なおさら大声でのヤジや奇声の類が場内に響き渡り、目立つという状況になっていた。 甲子園のヤジは、ユーモアに富んだものが多く、もはや名物というより、文化財的な側面さえあるもの。時には、心ないヤジもあり、赤星憲広氏が現役時代にベンチからクレームをつけて騒動になるようなこともあったが、通常の状況であれば、ヤジも大声もプロ野球の一部であり許容範囲なのだろう。しかし、新型コロナ禍で、万全の感染予防対策が施され、人数を制限して開催されているという特別な状況を考えれば、ファンもガイドラインに沿った「新しい応援スタイル」を厳守しなければならない。 だが、一方で、場内ではアルコールが販売されているという“矛盾点”もある。マスク着用で声を出さずお金のやりとりも直接ではなく専用のケースを使用するなど感染予防対策を取った上でビールサーバーを背負った売り子もスタンドを歩いている。 ガイドラインには、アルコール販売について「段階的緩和の観点から7月中は販売を控えることを推奨するが、球場管轄の保健所及び地方自治体の判断にもとづいた球団毎の運用判断を可とする」との記述がある。つまり5000人に制限されている間は「販売を控えることを推奨する」が、原則的に販売は許可しているのだ。甲子園球場は後者を選択した。 開幕の延期や人数制限のあおりを受けて球場収入が激減している状況。飲食で少しでも売り上げを伸ばそうとするのは、経営上、無理もない決断である。 だが、一方で決してすべてだとは言わないが、アルコールが入ることで「大声を出さない」という自制心が緩む可能性も高まる。試合が佳境に入り興奮すればなおさらだろう。 ガイドラインで定めた「新しい応援スタイル」の禁止事項に違反した場合、目に余るものであれば強制退場も余儀なくされるのかもしれないが、5000人を対象にいちいち注意していくことにも限界はある。あくまでも個々のモラルを信頼するしかないのも実情。「緊急事態宣言」が解除されてから、社会の自粛姿勢にも、緩みが出て、都内などでは、第二波を起こす要因にもなっているが、8月1日以降、観客が数万規模で増えると「新しい応援スタイル」の徹底に、さらなる“緩み“が出てくることも懸念される。 NPBとJリーグによる「新型コロナウイルス感染予防対策連絡会議」では、専門家チームである東北医科薬科大学特任教授の賀来満夫氏は、こんな提言をしていた。 「観客の方々も、健康管理を行い、スタジアムでの大声は感染リスクになりますので、しっかりとルールを守りながら、新たな応援スタイルを作っていただきたい。新たな応援スタイルを作ることが、チームやプロ野球を応援することになる。もし観客にクラスターでも出ると、球団だけでなく、国民にも多大な影響を与えることになる」 ファンもやっと取り戻した「プロ野球がある日々」を失わないためにも、新しい観戦ルールを守り、球団サイドも選手の協力なども得ながら、根気よく呼びかけ啓蒙を繰り返すしか「新しい応援スタイル」を確立する手段はないのかもしれない。