サブカル文脈から読み解く2010年代のアイドル、ももいろクローバーZとでんぱ組.inc
オタク・カルチャーはメインカルチャーになった
でんでんぱっしょん / でんぱ組.inc 田家:2013年5月発売、でんぱ組.inc、7枚目のシングル「でんでんぱっしょん」。これを選ばれているのは? 西澤:この曲の作曲が玉屋2060%さんというWiennersというバンドのヴォーカルの方なんですけど、Wiennersというバンドが僕好きで、結構取材をさせてもらっていて。もともと吉祥寺を拠点にしたハードコアパンクバンドだったんですよ。すごい激しいバンドだったんですけど、Wiennersになって男女ヴォーカルでハードコアパンクとシンセサイザーをかけ合わせて転調する曲を作るようなり、どこにも分類できない音楽をしていた。 田家:トイズからメジャー・デビューしているんですね。 西澤:今はコロムビアに移籍したんですけど、ずっとメジャー・シーンでやっている。なかなかまだ彼らの音楽が世間で受け入れられてなかったとき、でんぱ組に曲を提供したことでより広く受け入れられ始めた印象があります。そういう意味では、アイドルシーンが、バンドの活動を広げていく場所にもなっているんだなという曲でもあるなと思います。 田家:ボカロもそういう場所になっていましたもんね。 西澤:いろいろなクリエイターの方が実験できる場所という意味で、ボカロシーンもそうでしたもんね。そこから米津玄師さんみたいな方が出てきている。そういう意味で言うと、アイドルもそういう場所になっていたんじゃないかなと思います。 田家:ボカロに曲を提供してもライブはないですけど、アイドルはちゃんとライブがありましたもんね。 西澤:やっぱり当時のライブハウスの熱気がすごかったんですよね。それもカルチャー・ショックで。僕はインディーズ・バンドのライブが好きでよく見に行っていたんですけど、みんな腕を組んで「俺はわかるぞ」みたいにしていて。僕もそうだったんですけど(笑)。アイドルの現場に行くと、みんな熱狂して腕を上げたりダイブしたり、すごい熱量を感じて。そこからバンド好きのお客さんとかもアイドルシーンに流れていったのはありますね。 田家:今日最後の曲です。 W.W.D / でんぱ組.inc 田家:2013年発売、でんぱ組.incの「W.W.D」。これはWORLD WILD DEMPAという。 西澤:自己紹介ソングというか、彼女たちの生い立ちを歌にした曲ですね。2010年代前半って、オタク・カルチャーが好きってまだ堂々と言いづらい時代だったんですね。その中でオタクだった彼女たちが、いじめられて部屋から出られなかったとか、オタクであることが言いづらいとか、疎外されていたという生い立ちを曲の中で歌っている。そういうものを好きな人を肯定する楽曲として、彼女たちの代表曲なのかなと思いますね。 田家:引きこもりだった私を救ったアキバという。秋葉原がなかったら、私はどうなっていたかわからないということですもんね。 西澤:ゲーム、アニメ、アイドルとか、そういうカルチャーを好きでいいんだとちゃんと主張したという意味で、それがアイデンティティになっているのかなと思いますね。 田家:さっきのももクロの曲と近いものを感じたあなた。正しいです。この曲の作詞作曲も前山田健一さんでありました。 西澤:もう飛ぶ鳥を落とす勢いというか。だいたいヒット曲はヒャダインさんが作ってらっしゃいますね。 田家:2013年に武道館ライブを行って、2015年のこの曲の入ったアルバム『WWDD』はオリコンチャート3位。ももクロに次ぐ成功例。 西澤:と言っても過言ではないと思います。今年、でんぱ組は解散を発表して、2025年の初頭でグループが終わるということが公表されています。ある種、さっき言っていたみたいにオタク・カルチャーみたいなものが認められて当たり前になっていたということも1つ象徴なのかなという気もしますね。 田家:もはやオタク・カルチャーはメインカルチャーになった。 西澤:そうとも言えると思います。 静かな伝説 / 竹内まりや 流れているのはこの番組の後テーマ、竹内まりやさんの「静かな伝説」です。 この7月と8月をサブカルでやろうと思ったきっかけが2つありまして。みゆきさんの「時代」を2カ月間流せる方法は何かないだろうかと思ったんですね。「時代」に関係している特集を続ければできるかなと思ったのですが、なかなかそういうテーマが見つからなくて。もう1つが今月のゲストの西澤さんの存在なんですよ。Rolling Stone Japanがこの番組「J-POP LEGEND FORUM」、「J-POP LEGEND CAFE」を文字起こししてくれているんですね。アーカイブで読めるようにしてくれているんです。でも、この番組ではあまり触れてこなくて、どこかで触れなければいけないなと思ったりしていて。一度そのスタッフとご飯でも食べましょうということで話していて、彼がサブカル系のアイドルに詳しかった。僕もほとんど接点がなくて、ももクロおもしろいから見に行きませんか?と言われたりしたときに見て、へー!と思っている程度だったんです。 でも、この10年の流れの中でこういうサブカル系のアイドル、地下アイドルと呼ばれた人たちがいろいろなことをやっているなというのは小耳に挟んだり、周りにそういう人たちがいたりして、気にはなっていたんですね。なかなかそういうところに入り込む余地がなくて。彼に解説してもらえれば、これは僕らも勉強になるし、みゆきさんを取り上げるという1つの理由ができるかもしれないな。その彼がよく知っている地下アイドルと、僕らが知っているサブカルを一緒にしてみようということで始まったのがこの2カ月なんです。ある意味では今月が本番というような感じがあるのですが。 僕らは地下アイドルと呼ぶわけですが、なんで地下アイドルというふうに言うんだろうと思ったら、彼が教えてくれました。ライブハウスが地下室にあるからなんですよ。そういうことか。じゃあ、みんな俺たちの仲間じゃん、という気分で今週始めてみました。この10年、アイドルシーンがどう動いたか。来週もいろいろお聞きしていこうと思います。 <INFORMATION> 田家秀樹 1946年、千葉県船橋市生まれ。中央大法学部政治学科卒。1969年、タウン誌のはしりとなった「新宿プレイマップ」創刊編集者を皮切りに、「セイ!ヤング」などの放送作家、若者雑誌編集長を経て音楽評論家、ノンフィクション作家、放送作家、音楽番組パーソリナリテイとして活躍中。 「J-POP LEGEND CAFE」 月 21:00-22:00 音楽評論家・田家秀樹が日本の音楽の礎となったアーティストにスポットを当て、本人や当時の関係者から深く掘り下げた話を引き出す1時間。 OFFICIAL WEBSITE : OFFICIAL Twitter :@fmcocolo765 OFFICIAL Facebook : @FMCOCOLO radikoなら、パソコン・スマートフォンでFM COCOLOが無料でクリアに聴けます! →
Rolling Stone Japan 編集部