スマホゲームにメタバース…「鉄道会社らしくない試み」が印象に残るJR西日本グループの総合展示会
鉄道を育てるゲーム?
これとは別に、JR西日本グループは「ソダテツ」と呼ばれるゲームアプリも開発している。これは、鉄道を集めて育てる育成ゲームで、対象年齢は4歳以上。何かを楽しみながら育てる点においては、RPG(ロール・プレイング・ゲーム)の一種と言える。 筆者は、JR西日本イノベーションズの社員から概要を説明してもらったが、「バーチャル大阪駅 3.0」と同様に、すぐに理解できなかった。そこで、早速アプリをダウンロードしてプレイしたところ、このゲームの核となる「集めて育てる」面白さがわかった。 これは「鉄道を知る」ゲーム。プラレールなどの鉄道模型のように、さまざまな種類の車両の模型を集めて走らせて終わり、ではない。整備士や運転士を雇い、自分だけの鉄道を徐々にレベルアップさせ、コンテストに出場して殿堂入りを目指し、育てた鉄道をNFT化してユーザー間でトレードする。つまり、鉄道のメンテナンスやオペレーションのように、これまで鉄道趣味の対象になりにくかった領域もコンテンツにして、鉄道運営の全体像がわかるように設計されているのだ。 しかも、これはスマホで楽しむゲームなので、鉄道模型のように線路を敷く広い場所を確保する必要がないし、基本的に無料でプレイできる(一部課金システムあり)。それゆえ、「鉄道会社が自ら鉄道の新しい楽しみ方を提案している」と筆者は感じた。
新たな価値の創出へ
以上、展示会場で見かけた「鉄道会社らしくない試み」だけをピックアップして紹介した。本来紹介すべき「鉄道会社らしい試み」は、関係者には申し訳ないが割愛した。 なぜJR西日本グループが、このような「鉄道会社らしくない試み」をしているのであろうか。その理由を各社の社員に聞くと、異口同音に「鉄道を取り巻く環境の変化」という返答が返ってきた。 現在、日本の鉄道事業者はきびしい局面に立たされている。将来の人口減少を見越して、鉄道の省人化とコストダウンを図ってきたものの、コロナ禍で鉄道利用者数の減少が前倒しで起こり、鉄道事業に頼る従来のビジネスが成立しにくくなった。 そこで必要になったのが、従来の鉄道になかった価値の創出である。今回紹介した「鉄道会社らしくない試み」は、それを実現する手段と言える。 後編記事『「おカタいイメージ」だったJR西日本が、コロナ禍以降に「おおきく変化したこと」』へ続く。
川辺 謙一(交通技術ライター)