「好きなこと」ならリスクは自己責任?ーー俳優の労災特別加入で労働環境は変わるか
悲しい事故をなくしたい
俳優やカメラマンなどが事故にあったり病気になったりした場合、労働者性を認めて労災を認定するかどうかは、個別のケースとしては以前から議論されてきた。 事故にあって初めて自分が無保険状態だと認識する人も少なくなく、労基署に労災保険を請求しても、労働法規で規定する「労働者」じゃないからと門前払いされることも多かった。 労災保険の特別加入もなかなか実現しなかった。ここにきて一気に進んだのは、近年のフリーランス保護の流れに芸能従事者も位置付けられたからである。 芸能従事者の労働環境向上に努めてきた俳優の森崎めぐみさんは、今年4月、特別加入団体「全国芸能従事者労災保険センター」を立ち上げた。特別加入団体とは、個人で労災保険に入るときの受け皿となる団体である。 森崎さんは1993年に映画でデビューして以来、さまざまな撮影現場を経験してきた。芸能従事者の労災加入に取り組む動機は、「目の前に困っている人がいたから」だ。 「俳優だけでなく、音楽とかスタッフの方とか、いろんな団体の方たちが集まる労災の連絡会に参加していました。事故報告をすると、重篤な事故の報告が、毎月のようにあるんです。補償の状況がひどいものもありました。車いすになって介護生活になったり、長年強い照明を浴びてほとんど視力を失ったりする人もいます。苦しんでいる姿を見て、これではいけないと思いました」 森崎さんは、労災保険に加入する個人が増えることによって、事故防止意識が現場にフィードバックされることを期待する。 「特別加入団体は加入者に対して、具体的な安全基準を示しながら『私たちも気をつけましょう』と働きかける義務があります。私たちのセンターも、勉強会を開いたり、メルマガを配信したりして啓蒙しています。知識があると、本人の意識が変わるんですよね。厚労省が業界に対して安全衛生管理を進めるよう通達を出していることを知れば、現場でむちゃを強いられたときも、『これは危険だと思います』と言えますし」 同センターの加入者数は公開されていないが、現在までで数百人だという。