「好きなこと」ならリスクは自己責任?ーー俳優の労災特別加入で労働環境は変わるか
安いギャラ、重い保険料
岩永さんは後輩たちに加入をすすめている。しかし、「労災に入る人が急に増えるとは思わない」と言う。 労災に特別加入するためには、特別加入団体の会員になって、会費と保険料を納めなければならない。民間の保険より安いとはいえ、アルバイトで食いつないでいる若手には、そのお金を捻出できない。 毎日仕事があるわけではないので、仕事があるときだけ、1日単位で保険に入る人もいる。 「たまたま保険をかけ忘れたときにけがをしてしまって、大変なことになる。その繰り返しだと思います、この世界は」 岩永さんは高校卒業後、俳優を目指して上京。アクションに興味を持ち、21歳でボディースタントを、26歳でカースタントを始めた。テレビ番組で体を張った挑戦をしたり、メジャーな映画で多くのスタントシーンを担当したりした。 29歳のとき、テレビ番組の撮影中にけがを負った。医者に「一つ間違えたら死んでいた」と言われたほどの大けがだった。
岩永さんの場合は、事務所がかけていた傷害保険とテレビ局の補償で、治療費と休業中の生活費をまかなうことができた。しかし、すべてのスタントマンがそうではない。 「泣き寝入りしている子がいるという話は聞いています。裁判をして、けがの責任がどこにあるのかを問わないと、補償金が出ないこともあります。ぼくは幸運なことに師匠が面倒を見てくれましたけど、どこに所属したかで命運が分かれるようなことは、なくしたいんですよね」 岩永さんは、スタント界に若者が減っていると感じている。スタントを魅力のある仕事にするための処方箋は二つだ。一つは、ギャラを上げること。もう一つは、災害防止意識の向上である。 スタントに限らず、芸能の世界では「好きなことをやっているのだから、リスクは自己責任」という考えが根強い。世間がそう見るというだけでなく、本人たちもそう思っている。岩永さんも「変えていかなければと思いつつも、そういう意識はなかなか抜けない」と言う。 「ぼくの場合は、自分の技術を過信したことによるけがでした。ちょっとしたアクションでも補助をつけるのに、一人でやってしまった。若気の至りですが、そういうことは誰にでも起こりえます。撮影現場は常に時間に追われています。だからこそ、しっかりとしたマニュアルをつくって、それを守らないといけないんです」