「住宅ローンの連帯保証人は、妻の私です」夫が自己破産...「借金地獄」を覚悟した妻に起きたまさかの「奇跡」とは
「私から『貧乏オーラ』みたいなものが出ていたのかなと思います(苦笑)。派手で見栄っ張りな人が一番苦手だといつも言うので、私を好いてくれたんだと思います」 実直で手堅い経営や人柄がにじみ出るようなあたたかい接客が評判を呼び、夫の店は小さいながらもよく繁盛した。弟子も増え、一時店舗数は市内4店舗にまで増えたそうだ。 「3店舗目は、それまでよりもグンと家賃の高いテナントを借りました。契約やデザイン、内装工事・設備など、全部あわせて1500万円ほどかかりましたが、銀行は可能性を見越して、新たに融資してくれたそうです」 4店舗目は初めて出店要請を受け、こちらも開店に巨額な費用を要した。ここでもまた新たに銀行から追加融資を受ける運びとなる。住宅ローンもあわせれば、借金は総額で9000万円にまで膨れ上がっていた。
「家のローンも抱えて、夫はあっという間に借金まみれになりましたが、店の人気は凄まじく、返済に不安はなかったようです」 さつきさんは夫の会社の「役員」に名を連ねてはいたが、経営にはノータッチ。開店前の掃除だけが、さつきさんの業務だった。 「2店舗だけですが、掃除は他人様の手を借りずに毎日私がやりました。あとは家で好きな裁縫やお菓子作りをさせてもらってましたね。いいご身分でした。でも、4店舗目のオープンを目前にして私たちを襲ったのがコロナです」 緊急事態宣言が出され、手頃なワインと料理が人気でいつも満席だった夫の店からは人影が消えた。しばらくの休業後には、世間のご多分に漏れずテイクアウト事業に注力したものの失敗。一度離れた客や従業員はなかなか戻らず、多額の借金だけが残ってしまったのである。 「コロナ融資は受けませんでした。いくら審査が『ザル』だろうが無利子だろうが、返せる当てのない金を借りるなんてことは俺にはできん、と。どこまで真面目なんだろうと思いました」 コロナが一段落してからも、夜がメイン営業だったさつきさんの夫の店は、なかなか集客することができなかったという。 「最近ですよね。皆さんが普通に飲みに行く生活に戻ったのは…夫の店と運営会社は、そうなる前に力尽きたんです」 肩を寄せ合って懸命に生きてきた夫婦に訪れた夫の会社の倒産という残酷な現実。しかし、このあとさつきさんに予期せぬ出来事が起きる。その真相とは? 後編にて詳報する。 取材・文/中小林亜樹 写真/getty images