肉食恐竜の脅威で鎧が進化?ミイラ化恐竜化石の謎に迫る最新研究が発表に
白亜紀恐竜時代の過酷な生存競争
Brown博士達はこの研究論文において、ボレアロペルタの防御生態の復元をメイン・テーマとして採用している。その際装甲の発達具合だけでなく、残された皮膚の化石をもとに、体の色の復元を行った。 「恐竜の体色の復元」と聞いてピントくる方もいるかもしれない。このテーマに関して私は以前2回、一つの研究論文をとりあげ、記事としてまとめた。 -恐竜の体の色復元は可能か(上) 化石記録におけるデータの限界 -恐竜の体の色の復元は可能か(下) 最新技術を用いた研究が導いた光明 実はこの時の研究の中心メンバーだった英国のJacob Vinther博士が、今回のミイラ化恐竜化石の研究にも加わっている。ピグメントとメラノソームと呼ばれる「色素の粒」の大きさをもとにした体の色の復元は、恐竜研究において非常に新しいテクニックといえる。(この詳細は二つの記事参照。)このミイラ化した化石標本をもとにしたデータによると、ボレアロペルタはその生存時、灰色がかったかなり地味な色をしていたと推測されている。 現生草食哺乳類と体色の比較もされており、どうもサイやゾウの色に近かったと結論付けられている。 「かなり地味すぎる?」という声が聞かれるかもしれない。しかし今回の研究チームは、この地味な色が当時の肉食恐竜から「身を護る」のに役立ったというアイデアを提案している。 目立たない保護色のようなボディーカラー、そして全身に鎧をまとった影武者のようなボレアロペルタ。今回の研究チームはこうした一連のイメージに、肉食恐竜からの脅威──それもかなり強度のプレッシャー──の存在を指摘している。白亜紀当時の「古生態」はなかなか大型草食恐竜にとっても、過酷だったのかもしれない。(こうした条件がさまざまな恐竜の多様性や大型化にもつながっているのだろうか?) 果たして読者の方は皆、このアイデア(仮説)に同意されるだろうか? 改めていうまでもないことだが、こうした中生代を含む太古の化石種の生態は、タイムマシンでもない限り、今となっては直接確認する手はずはない。古生物学は非常に限られた情報やデータをもとに、推理を働かせる任務を任された探偵のようなものだ。しっとりと深い霧の中に潜って、所々に散らばるろうそくの火をかき集める。その先に何か一筋の光明のようなものが浮かび上がってくるかもしれない(浮かび上がらないかもしれない)。こうしたあいまいさの中に潜む真実に自然と惹きつけられる方は、かなり化石研究者としての素質があるのかもしれない。