肉食恐竜の脅威で鎧が進化?ミイラ化恐竜化石の謎に迫る最新研究が発表に
古生物学者の池尻武仁博士(米国アラバマ自然史博物館客員研究員・アラバマ大地質科学部講師)が、5月に紹介したカナダアルバータ州で“ミイラ化”した新種の鎧竜化石が発見された、というニュースを覚えているでしょうか。世紀の発見と呼ばれるにふさわしい、まるで今にも目を覚まして動き出しそうな完全な姿をとどめた骨格化石は、皮膚の状態まで感じることが出来る彫刻のような威容が、大きな注目を集めました。 この新種の鎧竜化石を発見したRoyal Tyrell Museum of Paleontology(ロイヤル・ティレル古生物博物館)から池尻先生に、現地時間3日付で科学雑誌に発表する最新論文について、連絡がありました。 世界中の注目を集めた新種恐竜の正式名は何に決まったのでしょうか? その大きさは? そして研究の結果、新たにどんなことがわかったのでしょうか? 池尻先生が報告します。 ----------
新種の白亜紀鎧竜「ボレアロペルタ・マークミッシェルアイ」
2ヶ月くらい前、私はカナダのアルバータ州で発見された斬新な白亜紀の鎧竜化石発見のニュースを紹介した。この恐竜の圧倒的な存在感 ── 大部分の皮膚が残ったミイラ化した全身骨格 ── からいくらかでも、感じ取っていただけただろうか? -記事はこちら: -骨格のイメージはこちらのNational Geographicのサイトにおいてもチェックできる: さて8月3日付(日本時間で4日)の学術雑誌「Current Biology」において、このミイラ化した恐竜骨格の研究論文が発表されるとの報を、カナダ・アルバート州のRoyal Tyrell Museum of Paleontology(ロイヤル・ティレル古生物博物館)のスタッフの方より直接いただいた。以下にこの研究論文のあらましを紹介してみたい。 -Brown, C. M., D. M. Henderson, J. Vinther, et al. (In press) "An Exceptionally Preserved Three-Dimensional Armored Dinosaur Reveals Insights into Coloration and Cretaceous Predator-Prey Dynamics." Current Biology. (Online access in 2017/08/03) まずこの恐竜は新種新属のノドサウルス系の鎧竜(正式には「曲竜類」: Ankyklosauria, Nodosauridae)として正式に命名された。名前はBorealopelta markmitchelli ボレアロペルタ・マークミッシェルアイ。属の名前「ボレアロ」は「北」そして「ペルタ」は「盾やシールド」をラテン語で意味する。そのためレアロペルタとは「北の装甲」といった趣を表している。 種名はこの大きな化石骨格の修復やクリーニングにたずさわったマイク・ミッシェル氏の、長時間に及ぶ作業に感謝の念をこめて名づけられた。研究者からのこうした思いやりにみちた心遣いは何とも微笑ましい。論文でこの修復作業には「トータルで7000時間以上に及んだ」、と断りがわざわざ入れられている。化石骨格にこびりついた岩石を取り除き、壊れていたり、ひび等が入っていた箇所の修復などは、かなりの知識と経験が必要だ。特に恐竜などの化石骨格を取り扱う際は、研究者も顔負けの骨格や解剖学の知識も必要とされる専門職といえる。 化石骨格は ── 当時の遠浅の海岸線から少し離れた ── 海生堆積層から発見された。記録によるとこの地層群(MucMurray塁層)からはそれまで恐竜の化石が見つかったことがなかったそうだ。初めて発見された恐竜化石がこのミイラ化骨格と聞かされては、全く化石探索と発見の奥深さが改めて思い知らされる。(時々思いもよらぬ場所から研究者の常識を覆すような標本が見つかることがあり、ただ唖然とさせられる。) 全身骨格のサイズから、体重約1700kgと推定されるこの大型草食性の恐竜。現生のどの陸生草食動物よりも大きい。