科学の教え、よく眠れずに体調が悪い時は「休んだほうがお得」 無理して仕事がダメな理由
さすが睡眠不足大国日本と言うべきか
ランド研究所の試算によれば、米国は経済規模が大きいため経済損失が圧倒的に大きく(年間最大4110億ドル)、次いで日本(年間最大1380億ドル)であった。1380億ドルは円安の現在、1ドル150円として20.7兆円と気の遠くなるような金額である。対GDP比では日本の損失額は最大2.92%と6カ国中トップという有り難くない評価をもらっている。さすが睡眠不足大国と言うべきか。 米国は年間の総計で約123万日分の労働時間が、日本は年間平均60万4000日分の労働時間が睡眠不足のために失われているという。 労働者が健康上の理由で欠勤する理由はさまざまだが、一般的にはインフルエンザや新型コロナウイルス感染症などで発熱した時、腰痛やぎっくり腰、女性であれば生理痛などで短期間の休みを取ることが多い。長期の欠勤の理由としては大きな怪我、がん、心筋梗塞、脳梗塞などの重篤な疾患に罹患した場合が多いが、最近ではうつ病や適応障害などの精神疾患が急増している。 ところが症状が重篤でない場合は無理をして出勤を続ける人が少なくない。そこで生じるのが冒頭で紹介した「プレゼンティーイズム」である。 「アブセンティーイズムとプレゼンティーイズム」は労働者の生産性の低下を指す言葉として広く知られている。アブセンティーイズムとは心身の不調など健康問題によって欠勤(休業)しているのに対して、プレゼンティーイズムとは健康問題を抱えつつも出勤して仕事を行っている状態を指す。直感的には頑張って出勤している方が企業にとって有り難いように見えるが、実はプレゼンティーイズムの方がアブセンティーイズムよりも経済的ロスが大きいと過去の研究で試算されている。 米国の金融関連企業の健康関連コストのうち、欠勤を伴う従業員の治療費を含めた医療費負担よりもプレゼンティーイズムによる経済ロスの方が圧倒的に大きかったという。うつ病はプレゼンティーイズムを生じやすい疾患として有名だが、慢性不眠症や睡眠時無呼吸症候群など睡眠障害も同様で、特にうつ症状を伴う場合にはコストが大きくなる。 国も無関心ではない。厚生労働省や経済産業省が企業の健康経営を促す評価指標として、従業員の喫煙・飲酒・運動・朝食の習慣に加えて睡眠習慣を取り上げるようになった。これら生活習慣の中でも睡眠問題は飲酒と並んでプレゼンティーイズムの大きな原因であることが指摘されている(経済産業省「企業の「健康経営」ガイドブック 」)。 日本生産性本部が公表した「労働生産性の国際比較」によると、2022年の時間当たりの労働生産性はOECD加盟38カ国中30位、一人当たりの労働生産性は38カ国中31位と振るわない。先進7カ国(G7)では断トツの最下位であった。その原因の一つが睡眠と休養不足であることは多数のエビデンスが示唆している。ちなみに、OECD加盟国中で睡眠時間の短さで常に最下位争いをしている韓国もそれぞれ33位、27位と最後尾グループに甘んじている。かつて美徳とされた「寝食を惜しんで働く」は過去の遺物となった。
(三島和夫 睡眠専門医)