続発する「M&Aトラブル」の最新実態。船井電機は破産、朝日出版社では取締役全員解任!
そこには「リストラはしないで財産(人財)を守る」「M&A契約書に3年間は社員の身分保証をしている」「朝日出版社をいい会社にする」といった言葉が並ぶ一方、具体的な事業改革案や新規事業のアイデアなどの言及はなかった。その社内説明会の模様について、前出の小島氏は語る。 「お話を聞いて、かえって不安が募りました。例えば、社員の身分保証をするとありますが、その契約は株主と戸田事務所の間で結ばれているもので、齋藤氏が社員に保証責任を負うわけではないと弁護士に確認しています。社員の安心材料にはなりえません。 齋藤氏は副社長の池田氏に会ったこともなく、新会社設立についてもよく知らないと答えるばかり。社長就任の経緯に関しても、『過去よりも未来について話したい』と明確な回答は得られなかった一方、労働組合の活動については齋藤氏側の弁護士から、『会社に対する名誉毀損だ』と強い口調で言われました。 齋藤氏は、『この会社は大好きだから、とにかく良い会社にしたい』とおっしゃるのですが、従業員からの『朝日出版社の好きな本は?』との質問には自身の在職時の本しか答えられず、近年の本にはまったく言及がありませんでした」 その後、労働組合はあらためて齋藤氏に団体交渉を要求。長らく無回答が続いたが、本記事の執筆時点でようやく日程調整に入ったという。旧経営陣の裁判も始まったばかりで、このM&A騒動の決着は、まだ何もついていない。前代表の小川氏がこう語る。 「この騒動の全貌がわからないことが何よりも問題です。そもそもご遺族と戸田事務所の仲介をしたマクサスの意図がわからない。 ホワイトナイト(友好的買収者)として印刷会社が戸田事務所よりも高値を提示した際、『株主の仲介者として好条件な提案をなぜ断るのか』と聞いても、総合的判断としか答えず、戸田事務所でなければダメな理由をまったく明かしてくれない。 ほかに買い手候補がいなかったとも説明されたのですが、私たちが各出版社などに問い合わせたところ、相談自体がなかったと判明しています。 しかも、それだけ戸田事務所にこだわるのに、実はいまだに株式譲渡は成立しておらず、株主はご遺族のまま。M&Aは未成立です。なぜ契約を締結できないのか。まだ私たちが把握していない事情があるのかもしれません」 そういった疑問の数々を明らかにすべく、新代表の齋藤氏に取材を依頼するも、期日までに返答は得られなかった。 ■日本で急増する"吸血型M&A" 朝日出版社を巡るM&A騒動について、神戸国際大学経済学部教授の中村智彦氏は、次のように見解を示す。