あのケネディ米大統領に「フランスが世界一」と認めさせた男がいた!~ルーヴル美術館・ブランディング秘話
イタリアの名画を見せてフランスが讃えられた
《モナリザ》は言うまでもなく、イタリア・ルネサンスの巨匠レオナルド・ダ・ヴィンチの作品である。この作品の偉大さを語るのであれば、フランスではなく、イタリアを讃えてしかるべきだ。しかし、ケネディが讃えたのはフランスだった。これだけで、労力と時間をかけて《モナリザ》をアメリカに貸与したマルローの目的は十分に果たされたと言ってよい。アメリカ大統領から「フランスは世界第一の芸術の国」という言葉を引き出したのであり、それによって、「ルーヴルが世界一の美術館」であることを国際的にアピールすることができたのである。 この渡米によって、ルーヴル美術館は新たな神話を獲得した。ルーヴルは、いつかは《モナリザ》を見るために訪れねばならない「世界一」の美術館である、という神話だ。マルローが仕掛けた《モナリザ》の渡米は、フランス文化の復興というド・ゴールのスローガンと、その支えとなるルーヴル美術館のブランディングに大きな成果をもたらしたのである。 《モナリザ》訪米の4年後、ワシントンのナショナル・ギャラリーは、当時の最高額となる500万ドルを拠出して、リヒテンシュタイン公家から、《モナリザ》と双璧をなすレオナルド・ダ・ヴィンチの傑作肖像画《ジネヴラ・デ・ベンチの肖像》(1478年頃作)を購入した。今日もなお、アメリカが保有する唯一のレオナルドの作品である。《モナリザ》展を経験することによって、一流の美術館になるためにはレオナルドの傑作が必要だと「世界一の美術館」から学んだ結果であった。 (《モナリザ》の威力は昭和の日本人にも刺さった! その影響はあの庵野監督にも……? 【関連記事】エッフェル塔×「昭和の日本人」=『シン・エヴァンゲリオン』!? 刷り込まれた「パリへの憧れ」)
藤原 貞朗(茨城大学教授)