城氏が語る「フランスのW杯優勝に見えた伝統と新しい時代のサッカーの形」
20年ぶり2回目となる世界の頂点に立ったフランスが、伝統を継承した上で新しい時代のサッカーの形を示した。規律を守った堅い守備が戦術のベースにあり、そこから攻守の切り替えの早さを生かしたカウンター攻撃、精度と高さを兼ね備えたセットプレーの安定感が際立った。加えて突出した個の能力。クロアチアとの決勝戦の勝敗の分かれ目は、まさにそこにあった。 クロアチアは、序盤から高い位置からプレスをかけてボールポゼッションを維持して主導権を握った。フランスは、エムバペだけを前線に残して左サイドの裏を狙っていたが、その意図も完全にシャットアウトされていた。クロアチアは組織の力で中盤を支配していた。だが、点を取れなかった。 前半18分にセットプレーからのオウンゴールでフランスが先取点を奪うと流れが変わり始める。クロアチアは中盤を支配しながらも最後の最後で得点につなげることができず、マンジュキッチ、ベリシッチに続き、決め切るFWが、あと1枚が足りなかったように見えた。迫力が足りず、フランスに比べて個のスキルの差が浮き彫りになったのである。 フランスは、前半37分にセットプレーからハンドの反則をVARに助けられて拾い、グリーズマンがPKを決めて2-1と勝ち越すと、後半に入ってデシャン監督が動く。 ボランチのカンテに代え、197センチと高さもあり、バランサーとして抜群の調整力を持つエンゾンジを投入したのだ。カンテは、フランスの中盤の要だが、この日は、動きがよくなかった。デシャン監督は、そこを見極め、エンゾンジの起用で中盤を潰しにかかったのである。これでピッチ上の構図に変化が生まれた。 後半14分には、ポグバとエムバペの2人で点を取った。 ポグバのスルーパスに驚異的なスピードで追いついたエムバペがペナルティエリアを切り裂くと、長い距離を走ってきたポグバが、ラッキーなこぼれ球をゴールに押し込む。さらに20分には、エムバペが、冷静な判断力で隙を見つけて4-1と勝利を決定的にする見事なミドルシュートを叩き込んだ。 フランスの個の能力を象徴する2得点だった。 1998年に主将としてチームを率いて優勝を経験しているデシャン監督は、マルセイユの監督を経て、2012年から代表監督に就任、ブラジル大会でベスト8、そして今大会で優勝監督となった。選手と監督での優勝経験者はブラジルのザガロ、ドイツのベッケンバウアーに続き史上3人目の快挙だそうだ。 フランスは、1998年の優勝以降、チームの内紛などのゴタゴタがあったが、6年に及ぶ長期政権を敷くことで、それらの問題が解決に向かい、選手の世代交代はあっても、代表チームの指針、戦術がぶれなかったことで、その蓄積が、確実にチーム力へと変わっていった。