城氏が語る「フランスのW杯優勝に見えた伝統と新しい時代のサッカーの形」
1998年の母国大会で初優勝したフランスには、スーパースターのジダンがいたが、デシャン、デサイーを中心に守備が堅く、セットプレーでの得点能力の高さも推進力となっていた。今回の優勝チームも、その伝統を受け継いだ上に、グリーズマン、エムバペを中心にした抜群の破壊力、攻守の切り替えの早さを生かしたカウンター攻撃のスピードをプラスアルファして、新しい時代のフランスが作りあげられていた。 今大会で見えた世界のトレンドは、そのフランスも貫いた「堅守からの攻守の素早い切り替え」である。とにかく組織的な高い守備力がベースになったチームが勝ち進んだ。グループリーグで、前大会優勝チームのドイツが敗退したが、初戦でメキシコの堅守に苦しみ点が取れなかったことが影響している。日本がコロンビアを破るなど、波乱が何試合も起きた大会だったが、その背景には、鍛えられた守備力があったように思う。そして素早い攻守の切り替えからの高速カウンターが勝敗を左右するキーワードになった。 象徴的なチームが3位に入ったベルギーだろう。日本戦でのアディショナルタイムで、約9秒の超高速カウンターで決勝ゴールを奪ったが、ボールを奪ってからのスピードだけでなく、すべてにおいてクオリティの高いカウンター攻撃がベルギーの特徴だった。3、4人が同じ絵を描き、素晴らしい判断力、技術、連携力でシンクロして見せる。間違いなく新しい時代のサッカーである。 35メートル×40メートルのコンパクトな空間をボールが行き交う現代サッカーにおいて、セットプレーの重要度が再認識された大会でもあった。決勝の流れを左右したのもセットプレーだった。 今大会63試合で、実に70ゴールがセットプレーから生み出されている。フィジカルで上回る高さ、洗練された戦術、動き、プレーの精度はもちろんだが、キッカーのボールの質がモノを言った。セットプレーは、日本が、世界の流れから大きく取り残されている部分。高さがないことに卑屈になる前に、キッカーのボールの質を含めて磨くべき要素はたくさんある。