「民主主義の崩壊」兵庫県知事選、なぜ“陰謀論”が広まったのか。日本が「選挙×SNS」を対策できないワケ
◆SNS戦略に「公職選挙法違反だ」「民主主義の崩壊」の声
ただ知事選でのSNSの活用方法については、新たな疑惑が取り沙汰されている。兵庫県のPR会社・merchuが、SNSを駆使して斎藤氏の再選に向けてPR活動を行ったことが物議を呼んでいる。というのも、この企業の代表取締役である折田楓氏が自らのnoteで、『兵庫県知事選挙における戦略的広報:「#さいとう元知事がんばれ」を「#さいとう元彦知事がんばれ」に』という記事を投稿して、10月31日から11月17日までの選挙戦におけるSNS戦略を細かく公開したのだ。 おそらく、今後のPR事業の宣伝になると思い、ユースケースとして内情を明らかにしたのだろうが、これが大炎上している。そもそもSNS戦略をコンサルティングすること自体には問題はないし、一般企業であればよくあるSNS対策で済むが、斎藤氏のケースでは「公職選挙法違反だ」「民主主義の崩壊」といった批判がXで飛び交っている。選挙の場合、問題は選挙活動中に“カネの動き”があったかどうかが重要で、もしこのPR会社に報酬が支払われていたら公選法違反となりかねない。そうなると勝利した知事側が失職する可能性もあるので、斎藤知事の反対勢力が熱心に批判しているという印象だ。 しかも斎藤知事はメディアの取材に、SNSで支持が広がった状況について、「自然発生的に出てきた草の根、勝手連的な形で、いろんな方に応援していただく輪が広がったと感じている」などと述べているが、実際には裏で戦略的にPR活動をしていたことが表面化したことで、反対派から「うそつき」といった批判も出ている。 SNS戦略は、立派な選挙戦略である。違法行為がないのであれば批判されるべきではないし、別にズルをしたわけでもない。ここでいけなかったのは、まだ知事選の余波が残る中でPR会社が今回の戦略をnoteで公開し、余計な燃料を投下したことだった。 今回の知事選は、SNSや既存メディアなどの在り方について改めて注目が集まるものだったと言える。ただこの問題は政府なども絡んできちんと議論し続けるべきだろう。さもないと便利なはずのSNSが今後さらに激しい争いの種になって行く可能性がある。 この記事の筆者:山田 敏弘 ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。 X(旧Twitter): @yamadajour、公式YouTube「スパイチャンネル」
山田 敏弘