ブレグジットの決定から8年、イギリスへの移民「純増分」は当時の3倍に「激増していた」ことが明らかに
<EU域内からの移民増加が引き金になった「ブレグジット」だが、離脱後は非EU移民が激増。前保守党政権時代の政策に批判が集まっている>【木村正人(国際ジャーナリスト)】
[ロンドン発]2023年6月までの1年間で英国への出入国を差し引きした移民の純増分が実は過去最高の90万6000人に達していたことが11月28日、国家統計局(ONS)の発表で分かった。当初は74万人と見積もっていたが、16万6000人を加えて上方修正した。 【図表】世界の移住したい国人気ランキング、日本は2位、1位は? 新党・改革英国のナイジェル・ファラージ党首(下院議員)は英メディアに「恐ろしい数字だ。保守党に嘘をつかれるのはもうたくさん。労働党政権でさらに悪い数字になるだろう」と批判した。改革英国の党員数は10万人を超え、最大野党・保守党に代わって政権奪取をうかがう。 英国の欧州連合(EU)離脱はEUからの移民激増が引き金になったが、当時の焦点は1年間で30万人の純増。3倍に膨れ上がったのは香港の国家安全法、ウクライナ戦争の影響もあるとは言え、非EU移民の激増が大きく、これでは何のためにEUを離脱したのか分からなくなる。 ■スターマー首相「前保守党政権による異次元の失敗」 留学ビザの帯同制限で海外留学生が英国に連れて来る家族数が激減し、24年6月までの1年間では72万8000人に減った。移民流入数は120万人7000で、非EUが103万4000人(86%)、欧州経済領域(EEA)とスイス11万6000人(10%)、英国籍保有者5万8000人(5%)。 非EU移民を国別に見るとインド(24万人)、ナイジェリア(12万人)、パキスタン(10万1000人)、中国 (7万8000人)、ジンバブエ(3万6000人)。理由別では就労41万7000人、留学37万5000人、難民・人道15万1000人。16歳未満は17万9000人だった。 キア・スターマー英首相は「23年6月までの1年間に19年(18万4000人)と比較して4倍もの移民が英国にやって来た。これは異次元の失敗だ。偶然ではない。移民自由化のため政策が意図的に変更されたのだ。EU離脱は利用された」と指摘した。 ■「グローバルブリテンが前保守党政権の本心」 「グローバルブリテンが前保守党政権の本心だ。英国経済は絶望的に移民に依存している。エンジニアリングのような経済分野で国内実習生は過去10年間でほぼ半減し、就労ビザは倍増している。私たちは近く白書を発表し、移民を削減する計画を打ち出す」(スターマー首相) スターマー首相の説明では独立した移民諮問委員会がすでに見直しを行なっており、移民労働者に過度に依存している分野では就労ビザのポイント制を改革する。熟練労働者も、不足職種も英国国内での人材育成を促進し、方針に従わない雇用主は移民労働者の雇用を禁止するという。 EU離脱はリバタリアン(完全自由主義の信奉者)を装う大英帝国ノスタルジストによって主導されたことが透けて見える。インド、ナイジェリア、パキスタン、ジンバブエはいずれも英国の旧植民地で、永住移民による家族の呼び寄せも激増していることがうかがえる。 ■移民の大半は合法ルートで入国 「この移民増加は桁外れ」「開かれた国境の実験を行った」と前保守党政権の移民政策を徹底的に攻撃したスターマー首相は国民に対し国境を守ると宣言した。しかし保守党のクリス・フィルプ影の内相は「ナンセンス」と削減目標を示さなかったスターマー首相を批判した。 保守党のボリス・ジョンソン首相(当時)は、留学生が卒業後、2~3年就労することを認め、国民保健サービス(NHS)の人手不足を解消するためビザ取得ルートを拡大した。リシ・スナク首相(同)はその後、留学生の家族帯同を制限し、就労ビザの給与基準を大幅に引き上げた。 内務省によると9月時点で13万人以上が難民申請に対する最初の決定を待っている。21年9月から倍以上に増えた。小型ボートで英仏海峡を渡る不法入国者も今年に入って3万3000人を突破しているが、英国への移民の大半は合法的なルートで入国している。 EU離脱をきっかけに英国の崩壊ぶりがあらゆる面で顕著になっている。スターマー政権が有効な手立てを打てなければ、英国をEU離脱に誘った究極のポピュリスト、ファラージ氏の求心力と存在感はますます高まってくる。