がん治療の変革で世界に貢献 奥沢宏幸・第一三共社長
7製品中五つはアストラゼネカや米メルクと戦略的提携を結んでいます。当社はがん領域では新参者。彼らの臨床研究におけるネットワークや、各国の規制当局とのやり取りの経験を有効活用できます。もちろん自社開発も進めます。 ◇ボトムアップで提案 ── 高い開発力の裏には、多くの研究開発費投下がありますか。 奥沢 売上高に対する研究開発費の比率は25%前後で、それだけの価値があると考えています。7製品全てが当社の研究所が創生したもので大変誇らしいことです。 当社の最大の強みは「サイエンス&テクノロジー」。研究員一人一人がボトムアップで自分の研究テーマを提案でき、研究所幹部は侃々諤々(かんかんがくがく)の議論をします。一方、歴代経営者は、毎年の業績変動に関わらず一定の投資を継続し、細かいところに口は出しません。経営側と研究所の間でトラストとリスペクトがあり、今日の成功につながっています。 ── エンハーツのような革新的な製品を開発しても、特許切れという製薬業ならではの宿命もあります。どのように経営に臨んでいますか。 奥沢 収益を生んでいる事業をより深く掘り下げると同時に、新規事業を探索するという二つを並行する能力が必要です。当社としては、循環器の領域が大きな成熟期を迎え、崖を迎える前に、がん領域で大きく成功を収めつつあるという非常に良いつながりで事業領域を変えられています。さらに新しいがん事業を深掘りしつつ、新規事業も探索していきます。 ── 新型コロナウイルスに対するメッセンジャーRNA(mRNA)技術を使った初の国産ワクチン「ダイチロナ」も開発し、今年9月に発売しました。 奥沢 以前から当社もmRNA技術は研究をしており、コロナ禍に緊急で社内プロジェクトを立ち上げ、短期間での承認につなげました。日本の公衆衛生、安全保障に少なからず貢献できているのではないかと思っています。 ── 海外展開の戦略は? 奥沢 医療用医薬品市場に詳しい研究所の予測では、24年からの5年間における日本市場の年平均成長率はマイナス2%~プラス1%と見込まれています。一方で世界全体ではプラス6~9%程度。グローバル企業としての成長を考えると、必然的に日本市場だけでは厳しい。23年度の海外売上比率は62.5%ですが過渡期の数字と捉え、より高まると思っています。