がん治療の変革で世界に貢献 奥沢宏幸・第一三共社長
── 主力のがん治療薬「エンハーツ」の販売が好調で、2024年3月期の連結売上高は1兆6016億円と過去最高でした。 奥沢 21年度からの5カ年計画における4本柱のうち第一の柱が、エンハーツを含む「ADC(抗体薬物複合体)」というプラットフォーム技術を使う3製品の価値の最大化、第二の柱が既存製品、既存事業の利益の最大化です。二つが好調な業績をけん引しています。 ADC3製品のうち、トップバッターとして20年に発売を開始したのがエンハーツです。当初の見立てを上回る伸びで、23年度のグローバルでの売上高は3959億円。今期は5084億円を見込んでいます。ADCとは別の基幹製品である循環器領域が対象の抗凝固薬「リクシアナ」も23年度は2877億円と成長しています。 ── エンハーツの強みは? 奥沢 現在、承認を獲得した国・地域は50を超えます。英アストラゼネカと共同開発、共同販促を進めています。強みを一言でいうと乳がん治療に変革をもたらしたということに尽きます。患者の「HER2」というたんぱく質の発現量をもとに、治療の対象を広げてきました。最初はHER2が多く発現する「陽性」患者の3次治療として承認を取得しました。 その後の臨床研究で2次治療や、「低発現」の患者への治療など対象が拡大しました。胃がんや肺がんなど、治療できるがんの種類の拡大も進めています。米国では4月、HER2が過剰に発現している固形がんであればがんの種類を問わず使える横断的な承認を取得し、これも画期的でした。 ── 準備中の製品も紹介してもらえますか。 奥沢 エンハーツ含め発売ないし臨床試験中のADC製品群は七つです。2番手、3番手と見込まれているのが「Dato-DXd」と「HER3-DXd」という、乳がんや非小細胞肺がんに対する製品です。前者においては日米欧にて申請中で、米国では、肺がんに対してが12月20日、乳がんは来年1月29日に審査の完了予定日が規制当局から通知されています。