途上国と先進国の対立が先鋭化した「史上最低」のCOP29、化石燃料産出国の巻き返し開始で温暖化防止交渉は停滞
(国際ジャーナリスト・木村正人) ■ 先進国が途上国への資金を3倍の3000億ドルに 【写真】石油業界による大キャンペーンを批判するアル・ゴア氏 [ロンドン発]アゼルバイジャンの首都バクーでの国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)は会期を2日間延長して24日未明、先進国が途上国への資金を従来の年1000億ドルから2035年までに3倍の3000億ドルにすることで合意して閉幕した。 小島嶼国や後発開発途上国は5000億ドルへの引き上げを強硬に主張し一時交渉から退席、気候交渉における南北対立の深まりを改めて浮き彫りにした。途上国への公的・民間資金を35年までに年1兆3000億ドルに拡大するため、すべての関係者が協力することも成果文書で謳った。 国際エネルギー機関(IEA)は世界のクリーンエネルギー投資が24年に初めて2兆ドルを超えると予測する。同条約(UNFCCC)のサイモン・スティル事務局長は「クリーンエネルギーブームを成長させ続け、すべての国がその大きな恩恵を分かち合えるようにする」と力を込めた。 COP29は「史上最低のCOP」と揶揄されるほど、交渉は遅々として進まなかった。米国ではドナルド・トランプ次期大統領の復活、欧州では地球温暖化懐疑主義を唱える極右勢力の台頭で先進国の発信力は低下した。「先進国」はもはや「衰退国」に落ちぶれてしまった感が漂う。
■ 「化石燃料からの脱却はファンタジー」という批判キャンペーン 産油国アラブ首長国連邦(UAE)でのCOP28で「化石燃料からの脱却」で合意したものの、産油国の巻き返しは激しい。サイドイベントでノーベル平和賞受賞者(気候変動防止への貢献)のアル・ゴア元米副大統領は化石燃料利権が現在も影響力を持ち続けていると強調した。 ゴア氏は米国上院代表団の議長を務めた1992年のリオでのCOPゼロからCOP29までの道のりを振り返り、COP28で明記された「化石燃料からの脱却」と化石燃料利権の「構造的な利害の対立」を指摘した。サウジアラビアはCOP29の公式交渉文書を修正したと非難された。 「COP28から1カ月後、米最大の石油ロビー団体は『化石燃料からの脱却は不可能』と米国人に信じ込ませる大キャンペーンを始めた。サウジアラムコのトップは『化石燃料からの脱却はファンタジー』と言った。ファンタジーとは何も問題はないと私たちを騙すことだ」(ゴア氏) これに対しゴア氏は再生可能エネルギーの発展や気候変動対策に取り組む世界最大の草の根運動を例に挙げ「持続可能性への移行は止められない」と断言した。英オックスフォード大学と国連開発計画(UNDP)の世論調査では世界中の80%の人々が気候変動対策の強化を望んでいる。