64歳でユーチューバーデビュー…動画再生数11万回 きっかけは「孤立への不安」
戦後の日本をけん引した団塊世代(1947~49年生まれ)が75歳以上の後期高齢者となる2025年。私たち日本人の老後は以前とは比べものにならないほど長くなり、暮らし方も変わりつつある。仕事に生きがいを求める人、夫婦の在り方を見つめ直す人、住まいや墓、最期の過ごし方まで新しい変化が起きている。記者が現場を歩き、令和に生きるシニア世代の終活ならぬ「老活のいま」を紹介する。 【画像】肥後さんのユーチューブチャンネル。60代おひとりさまが楽しく過ごす日常を紹介する 作務衣(さむえ)のような緑色の館内着姿で、初老の女性が耳心地のよい声を響かせる。「お湯は割と柔らかで、気持ちのいいお風呂でした」 場面は変わり、畳の上に横たわって「休憩所でほてった体を休めました」。続いて食堂へ。「パスタが女性に人気ですよというスタッフの説明を尻目に、とんかつ定食を頼みました」 動画「はじめての1人温泉! 極上の癒やし時間」。ユーチューブチャンネル「ひごの暮らし」で昨年12月上旬に公開された。「私と同じような1人暮らしのシニアが、わくわくどきどきする人生の参考にしてくれれば」。運営者の肥後弘美さん(65)=福岡市西区=はコンセプトをこう説明する。 38年間の教員生活を60歳で終えた。年金と個別指導塾で生計を立てつつ「体が動かなくなった時のために少しでも稼ぎたい」と一念発起。受講したビジネススクール講師から助言を得て、64歳でユーチューバーデビューした。 インターネットの普及に一役買った「ウィンドウズ95」の登場から30年。NTTドコモモバイル社会研究所の2024年1月の調査によると、60代の6割、70代の5割がユーチューブを利用する。今やネットを使いこなす「デジタルシニア」は当たり前の時代となった。 初めての動画「60代おひとりさま 後悔とその対策100選」は、いきなり再生数が11万回に。2本目の「人づきあいで捨てたこと」は49万回に達した。 扱うテーマは生き方や旅行、勉強法、ファッションと幅広い。週1回のペースで、これまで40本余りの動画をアップした。月の収益は2万~3万円程度。「楽しみながら、報酬をもらえるなんて」と笑う。 内閣府などによると、20年に672万人だった1人暮らしの高齢者は、50年には1084万人まで増え、全世帯に占める割合は13・2%から20・6%に上昇すると見込まれる。 肥後さんがユーチューブを始めたきっかけの一つも「世間から孤立してしまうかもしれない」という強い危機感があったからだ。 「見習いたい」「共感できる」。視聴者からのコメントに「1人じゃない、誰かの役に立てている」と心が満たされる。 社会とつながることで実感できる「生きがい」。内閣府の21年の意識調査によると、70~74歳の男女の半数近くがこう答えた。「自分を高齢者と感じていない」