日本企業がスペイン首都で氾濫予測の実証実験中、すべては国際会議で掛けた「Hi!」の一言で始まった
防災大国・日本だからこそ生まれた水害対策の技術を世界へ
――プロジェクトは来年4月まで。すでに後半に差し掛かる中、今後はどんなことを進めていきますか? 最初の6カ月間で物理的にシミュレーションモデルを作りました。今後はそのブラッシュアップをして、精度をさらに高めたいですね。 もう一つは、モデルができたと言っても、カナル社のパソコン上で見られるものはないんです。なのでインターフェイス作りが必要ですね。画面上のこのボタンを押すとリスク予測ができるとか、シミュレーションではアニメーションも取り入れるとか、カナル社のニーズを満たすような画面作りを提案していきます。 少し話がそれますが、洪水管理国際会議などの展示会に参加して感じたのが、他のソフトウェア会社でも似たようなシステムを売っているんです。でもお客様は、「自社の悩みを解決できるのはどれなのか分からない、結局どれを買ったらいいか分からない」と言っているんです。 アラート機能、グループチャット機能が欲しいなど、お客様の悩みを聞いた上で技術的な提案をし、問題を解決していく糸口を見つけていきたいですね。 ――最後に、改めて今後の抱負を教えてください。 マドリードでは雨が少なく、氾濫のリスクは少ないとされてきました。しかし去年、スペインでは水害が起きて、地下鉄に水が入るなど被害を受けた地域もあるんです。おそらく気候変動の影響だと思われます。マドリードの上下水道を管理するカナル社にとって水害管理は彼らのミッションの一つ。急遽、洪水予測しないといけないことになり、早めにアクションを取る必要が出てきました。 一方、日本は災害大国で何十年も前から水害に悩まされています。見方を変えるとその結果、防災技術が生まれ、それが世界的に見ても強みになっています。スペインに限らず、東南アジアでも水害の防災技術が求められ、日本企業が活躍できている事例も知っています。日本が培ってきた技術が世界中で役に立って、活躍するビジネスパーソンがいるんだというのは若い人にも一つのビジネスモデルとして見てもらいたいですね。 また今回の実証実験はお金をかけずにやっているので、最初に展示会で会ったきり、ウェブミーティングだけで実験を進めています。今後、マドリード全域で実際に導入することになれば、みんなでマドリードへ行こうという話をしていて、それを実現できるように力を尽くしたいです。
取材・文:星谷なな