日本企業がスペイン首都で氾濫予測の実証実験中、すべては国際会議で掛けた「Hi!」の一言で始まった
「種まきが重要」半信半疑ながら展示会に参加、新規案件を獲得
――カナル社と仕事を一緒にすることになったきっかけを教えてください。 私たちは日本で河川などの氾濫予測シミュレーション技術を使った国土交通のプロジェクトを受注してきました。日本では国土交通省が日本の1級河川を対象に氾濫予測モデルを持っていて、24時間リスク管理をしています。なのでこの技術を今後は海外へ輸出していこうと動き出していたんです。 その中でいくつかの国際展示会などに参加していて、洪水管理国際会議(ICFM9)という国際会議でカナル社と出会いました。洪水管理国際会議は3年ごとに開催されていて、洪水に関するリスクマネジメントについて議論が交わされる場です。2023年は茨城県つくば市で開かれました。 洪水管理国際会議では企業展示プースとして各国が営業ブースを設けることができるので、そこで弊社の「RisKma」という洪水予測や情報収集、ゲリラ豪雨など雨がどこで降っているのかという水災害発生リスク情報プラットフォームを展示していたんです。
その展示ブースにたまたまいらっしゃったのが、カナル社の担当者でした。熱心に各企業のパネルや展示をご覧になっていました。ただ、企業ブースには日本企業が何社も並んでいたんですけど、みなさんシャイだったのか、なんとなく話しかけなかったんです。その様子を見ながら、「このまま俺のところに来るな」なんて思っていたんですが、いざ私のところに来た時に「Hi!」と思い切って声をかけたんです。 「これは洪水予測システムだ」と展示していたRisKmaについて英語で伝えたところ、カナル社の担当者が驚いた様子でした。よくよく話を聞いてみたところ、「洪水予測したいがプラットフォームがなくて困っていた」と話し始めたんです。 そこからどんどん話が盛り上がって、「今日はもう時間が無くなったから後でウェブミーティングしよう」ということで、数週間後にウェブミーティングをしました。そこから1、2カ月に一度のペースでウェブミーティングをして内容を詰めていき、1年ぐらいかけて受注まで辿り着きました。 ――声かけが結果に繋がったんですね。 洪水管理国際会議以外にも国際会議に出展をしていて、いずれも本当に参加する意味があるのか半信半疑で参加していたんです。でも私が洪水管理国際会議に出展することを提案して、今回のご縁につながりました。当時の部長も“種まきが重要”だと考えていたので、数打てば当たるという良い事例だと思います。 また他の出展ではパネルなどで一方的に発信、展示するだけで、相手の困りごとや要望を聞くというコミュニケーションが十分ではなかったこともありました。今回、カナル社の担当者に声をかけてヒアリングをして結果に繋がったのは、私たちにとって大きな資産となりました。 ――でも契約までに1年かかったんですね。 はい、普通であれば諦めそうな時間軸ですよね。おそらく両社とも辛かったと思います。でもカナル社としては遠い国の知らない企業にお願いしていいのか悩ましいかったんだろうと想像しています。 私たちコンサルタント企業は問題解決するのが専門です。そこはきめ細やかにヒアリングをしながら、カナル社が何に困っているのか、技術的な提案を説明した結果、納得してもらえましたね。 またコミュニケーション、言葉は大きな壁でした。当初は英語でミーティングをしていましたが、カナル社の母語はスペイン語、私たちは日本語。互いに英語が第二言語で、細かい部分を理解できなかったり、伝えきれないことがありました。そこで途中からスペイン語を母語とする技術者・エルネストさんをチームに加えたんです。英語で説明しにくい部分はスペイン語でも対応可能というスタイルに切り替えました。 ミーティングではまず英語で挨拶し、簡単に説明や報告をしていますが、やはり細かい提案ができるようになったのは、おもてなしではないけれど、言葉の壁を超えてやろうする私たちの思いが伝わったのかなと思います。 ――海外企業との契約で大変だったことはありますか? はい。弊社は基本的には国内業務がメインで、海外案件はグループ会社が担当しています。なのでまずは社内で海外案件の稟議をどう上げるのかで悩みました。実は一度、カナル社との取引をしないという経営判断になりそうだったのですが、私たちがいろいろ駆けずり回って、無事にGOサインを出してもらえました。 でもその後もいろいろ苦労がありましたね。スペインと契約したことがなかったのでユーロ支払いのための社内システムがないとか。細かいことを含めるといろいろな部署の方が悩んでいるのを見ましたね。 グローバルカンパニーになると目標を掲げても、社内的にはいろいろな苦労があるんだなと気づきました。今後、改善の余地があるところはどんどん変えていきたいですね。