断頭台では砕けた顎がだらりと下がり、苦痛に叫んだ…「恐怖政治の元凶」ロベスピエールはなぜ悲惨な最期を迎えたのか?(レビュー)
思うに、多数派は、ロベスピエールが拠っていた美徳が自分たち以外(ブリソ派、ダントン派、さらにはエベール派)に向けられている限りは、美徳という刃の鋭さにルサンチマンの充足を感じ、同時に善悪二元論的な陰謀論に拠ってロベスピエール派を支持したが、ロベスピエール派がいよいよ美徳という刃を自分たちに向けようとしていると察知したとたん命と自己利益を脅かされたと感じて反撃に出たということではなかろうか? 自己利得に聡い人ほど、美徳が自分たちを侵犯しない限りにおいて美徳を支持するものなのである。 ルソーは共同体の一般意志が「おまえは死ななければならない」と命じたら共同体の成員は死ぬほかないようなものが一般意志だとしたが、革命の全過程を支配したのは結局のところ多数派の自己保存本能に基づく一般意志であり、ロベスピエールといえどもこの一般意志には従うほかなかったのだ。 「美徳」の二面性という観点から大革命を見直すことで、「独裁者ロベスピエール」という紋切型を打破するのに成功した優れた評伝である。 *** 著者:髙山裕二(たかやま・ゆうじ) 1979年、岐阜県生まれ。明治大学政治経済学部准教授。2009年、早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了。博士(政治学)。専門は政治学・政治思想史。主な著作に『トクヴィルの憂鬱 フランス・ロマン主義と〈世代〉の誕生』(白水社、サントリー学芸賞受賞)、『憲法からよむ政治思想史(新版)』(有斐閣)、共著に『社会統合と宗教的なもの 十九世紀フランスの経験』、『共和国か宗教か、それとも 十九世紀フランスの光と闇』『フランス知と戦後日本 対比思想史の試み』(いずれも白水社)。 [レビュアー]鹿島茂(フランス文学者) 協力:新潮社 新潮社 波 Book Bang編集部 新潮社
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