中学が倒産、大学は入学を拒否。「日本にいるのに無国籍状態」からデロイトトーマツを経て起業【世界難民の日】
資本主義社会だからこそお金でマイノリティの助けに
京都の朝鮮学校の高等部に通っていた時、金は父母の勧めでカナダに短期留学を果たす。 だが当時の金は、「日本で生まれたけれど日本人ではなく、韓国人でもなければ、朝鮮にいる朝鮮人とも違う」とアイデンティティ・クライシスに陥っていた。 そんな金に対して、カナダ・ドイツ・フランス・日本にルーツを持つホストファーザーは、あっけらかんと「僕は、カナダもドイツもフランスも日本も全て愛しているんだ」と言った。 「それまで自分の国を考える時、『日本"か"コリア』という感じで考えていたけれど、『日本"と"コリア』というふうに考えてもいいんだって、霧が晴れたように思ったんですよね。ORじゃなくてANDで考えてもいいんだと気付かせてもらいました」 近年ようやく、ダイバーシティやインクルージョンの考え方が大切にされるようになってきた。しかし金を始めとした社会的マイノリティの人々は長年、日本の社会に同化することを求められてきた。 朝鮮学校という小さなコミュニティの中でさえ、同化を求められたこともある。京都の朝鮮学校の高等部に通い始めた金は、地元出身ではないことや部活を辞めたこと、日本の大学への進学を志望し始めたことなどを理由に、いじめをうけた。 マイノリティに突きつけられる現状に目をつぶれなくなった金は、父に相談し、大学でビジネスを学ぶことを決める。中学校倒産とお金に泣いた経験から、資本主義社会だからこそお金でマイノリティの助けになりたいと思ったのだ。 決意を実現するために英検を取得したわけだが、そこでも金は、冒頭のような理不尽を突きつけられることになる。努力の結果が打ち砕かれた時、すでに「受験の天王山」とよばれる高3の夏を迎えていた。 模試の結果、志望大学に合格する確率はE判定。人生初めての受験勉強は負け戦と思われたが、金は屈しなかった。 「朝ご飯を食べながらテキストを読み、通学しながら英語のシャドーイングをしていました。その時、生まれて初めて本気で勉強しましたが、案外楽しかったのを覚えています」 これまでの理不尽への悔しさを原動力に受験勉強に没頭し、立命館大学の合格をつかみ取った。