中学が倒産、大学は入学を拒否。「日本にいるのに無国籍状態」からデロイトトーマツを経て起業【世界難民の日】
ガザ地区からの避難民も参加
難民メンバーの中には、イスラエルとの戦闘が続くガザ地区を逃れ、エジプトに避難したパレスチナ難民の女性メンバーも2人いる。2023年にRobo Co-opの存在を知り、加入した女性は、Robo Co-opの取り組みと金の姿勢についてこう語る。 「私と妹はガザからエジプトに移った際、経済的な困難を抱えていました。 ですが、Robo Co-opに加入し、私達の生活は一変しました。PCや生活費を提供してもらったうえに、スキルの習得までできたおかげで、生きる希望と安定した生活基盤を手に入れることができました。 金さんは、メンバーがビジネス上でもプライベートでも成功できるよう、常に耳を傾け、手助けを惜しまないリーダーの見本。私たちは大切にされ、信頼されていると感じます」 紛争や気候変動などで強制移動を余儀なくされた人々は、2022年に世界で1億人を超えた。難民は1秒に1人のペースで増え続けており、2024年中には1.3億人を突破する見込みだ。日本人口を超えてしまう日もそう遠くない。 一方で国際通貨基金によれば、2030年までに世界のデジタルワーカーの不足数が8500万人以上に達するとも言われている。金は、難民の多くにデジタルスキルを身につけてもらい、経済的自立を実現することを目指している。
中学が倒産、「朝鮮に帰れ」のヤジも
シングルマザーや難民の就労支援をするようになった理由を、金に尋ねた。 「僕自身が、難民のようなルーツを持っているからかもしれません」 金は、在日朝鮮人3世だ。現在のソウルから南東に位置する慶尚北道の出身である祖父母は、1940年頃に日本へ留学のために渡った。彼らは、終戦後に民族としての正統性を重んじ「朝鮮籍」を選んだ。 日本は親との血縁で国籍が決まる血統主義だ。そのため金の父母、そして日本で生まれ育った金自身も朝鮮籍を持ち、生きてきた。 しかし、朝鮮籍とは、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の国籍ではなく、法律的には「無国籍」とも言える扱いになっている。朝鮮半島から移り住んだ人たちに国が戦後、便宜的に与えたものが「朝鮮籍」だった。 国籍がないためパスポートもなく、難民と同様に、日本政府から発行された「再入国許可書」を持っていた。海外から再入国する際に、許可書を持っていても空港で入国審査官から不審の目を向けられることもある。 日朝関係が緊張する中、金たちは多くの理不尽で心ない仕打ちを受けた。サッカーの試合に出た時はよく「朝鮮に帰れ」というヤジを飛ばされては喧嘩になった。突然、学校に人が押しかけ、子どもたちの目の前でヘイトスピーチをすることもあったという。 金が中学2年生の時には、ある日突然、地元滋賀県の朝鮮学校の中級部が倒産することを通告され、京都の学校への転校を余儀なくされた。 時は2000年代、ちょうど金の父母の世代にあたる、2世たちが働き盛りを迎えていた時代のことだった。2世たちが朝鮮籍を理由に差別され、日本企業に就職することが難しかったため、子どもたちが苦労をしないよう3世を朝鮮籍から韓国籍や日本籍へ帰化する事例が相次いだ。結果として生徒数が減り、学業収入が減り、民族学校が倒産したのだ。 金たちは差別を受け、自分の学習の場、さらにはコミュニティの中心だった学校まで奪われた。 「理不尽ですよね。でもこういう思いをしないといけない原因は社会構造にある。だから、何に対して怒りや悲しみを向けたらいいかすら分かりませんでした」