「最期の姿にぴったり」誕生日に棺桶を購入する30代 現役世代にも広がる「終活」の実態とは
「私はすぐに軸がぶれて、目先の雑事に踊らされます。でも、いつでも見られる場所に棺桶があると、自分が本当に大事にしたいものは何なのか、という軸にいつでもすっと戻ってこられる安心感があります」 しかしなぜ、「30代の終わり」だったのか。 「焦りかな。結婚したのも29歳でした。『30代の終わり、おめでとう』みたいな感じもあります。次に向かう私っていうか。自分のやったことを1つ1つ形に残したいタイプなので、30代にこれをやったという一つの区切りとして購入しました」 ■ゴールは棺桶に入る時 棺桶は夫と息子が部屋に運んでくれた。自分が死んだら実際こうなるのかな、とふと思った。その瞬間、家族の絆を感じた。死が怖くないわけではない。だが、死を遠ざけて見えなくするよりも日々意識できる環境のほうが、互いの死を大事にできる、と考えている。 「死に関するものを息子に見せたくないと思った時期もありましたが、むしろ身近に感じてもらったほうがいいかなって。今はたまに息子も棺桶に入って遊んでいます」 葬儀については、火葬後に遺族が遺骨を引き取らない「ゼロ葬」に興味があるという。 「『死の舞台』にこだわるのは結婚式のプランを練るのと似た感覚だと思います。ただ、肉体として存在するところまでが私だと思っているので、その先はこだわりがありません。ゴールはこの棺桶に入ることです」 ゴールが決まっているから、その過程を懸命に生きる気持ちが湧く。 「毎日がハッピーであることが一番大事になってくるというか、自分のしたいことや好きな人を見分ける感性が研ぎ澄まされ、大事にしようっていう意識は強くなりましたね」 (編集部・渡辺豪) ※AERA 2024年12月2日号より抜粋・加筆
渡辺豪