「最期の姿にぴったり」誕生日に棺桶を購入する30代 現役世代にも広がる「終活」の実態とは
当時は一人暮らし。急な入院のため、部屋の整理や身支度を周囲にお願いする羽目になった。 「無防備な部屋を自分以外の人に見られるのは耐え難いほど恥ずかしいと感じました。でも、死んだら同じことが起きる、と思ってぞっとしました」 万一のことがあっても、いつ、誰に見られても恥ずかしくない部屋の状態にしておかないといけない。そのことと、自分を大切にして生きてこなかった日々への反省が交差し、生き方を見直す転機になった。とはいえ、「死の準備」と向き合うにはまだ距離があった。 退院して職場復帰した真鍋さんは、「やりたいこと」がない自分に直面する。目先の仕事に集中していた時期には気づかなかったが、人事部に異動して就活学生に「やりたいことを見つけよう!」と呼びかける側になって、自分には人生の目標がない、と気づいた。 友人たちは公私にわたって具体的な将来の目標やイメージを持っていた。なのに、自分には昇格や持ち家の願望もなければ、勉強したいテーマも行ってみたい海外の国もない。 「ビジネスの世界では『ウィルがない人はダメ』みたいな言い方もされるので、すっかり自信喪失に陥りました」 やりたいことがないという悩みと向き合った末に思い浮かんだのが、「死ぬ時」のイメージだった。いずれ死ぬことは決まっている。だったら、そこを起点に考えられないか。そう思い直すと、「やりたいこと」が見つかった。 「科学的なメカニズムはよく知らないのですが、食用のバラを食べ続けると、体からバラの香りを発することができると聞いて、死ぬ瞬間にこの状態でいたいと思ったんです」 これが真鍋さんの終活の第一歩になった。「バラの匂いを出す」と書いた付箋(ふせん)をノートに貼った。これをゴールに据えると、その時までにやりたいこと、やっておくべきことが次々浮かんだ。食用バラを体内に取り込み続ける生活を送るには、まずはバラ農家と親しくなる必要がある。そのためには東京暮らしに区切りをつけ、いずれは実家のある広島に戻ろう。でも、子どもが20歳になるまでは一緒に暮らしたい。Uターンは50歳を目安に――。人生のタイムスケジュールが少しずつ埋まっていった。その一つが、39歳での「棺桶の購入」だった。