NHK大河『べらぼう』セクシー女優を起用しショッキングな「ヌード遺体シーン」を描いたが… ドラマよりも残酷な「投げ込み寺」の現実とは
1月から放送が開始されたNHK大河ドラマ『べらぼう』。蔦屋重三郎(演:横浜流星)を主人公に、吉原の伝説の遊女・花の井(演:小芝風花)、田沼意次(演:渡辺謙)が登場、語りの九郎助稲荷役を綾瀬はるかが務める。1話では、亡くなった遊女役にセクシー女優を起用し、衣服を剥かれた「裸の遺体」を描いて大きく話題になった。蔦重の恩人である女郎・朝顔(演:愛希れいか)が亡くなったあとに着物も奪われるという残酷なシーンだが、実際の吉原で遊女たちはどのように亡くなり、死後はどのような扱いを受けたのだろうか? ■異例のヌードで描いた「投込寺(なげこみでら)」 2025年の「大河ドラマ」、『べらぼう』。江戸最大の色街・吉原を舞台にした意欲作です。俳優さんたちが肌を見せるシーンが多いからでしょう、「インティマシーコーディネーター」が起用されたことでも話題となりました。 近年、注目が集まる「インティマシーコーディネーター」とは、ヌードや濡れ場の演技が必要とされる作品において、演じる側の俳優たち、演じさせる側の制作者の間に立って折衝したり、場合によっては俳優さんのケアを担当したりする重要な役職です。 『べらぼう』第一回でも、オールヌードが登場しました。しかし、それは濡れ場などではなく、吉原の遊女たちの不安定で悲惨な境遇を象徴する「投込寺(なげこみでら)」でのワンシーンだったので余計に驚かされましたね。 ■貧しい農家の少女たちの「悲惨な末路」 遊女たちはドラマでも語られていたとおり、貧家の出身者ばかりです。江戸時代は「太平の世」などと語られがちですが、現在より平均気温が低く、飢饉や凶作が相次いでいました。江戸の吉原に売られてくるのは、農作物の出来不出来で生活が左右されがちだった東北地方などの貧しい農家の少女たちです。 だいたい十代後半くらいまでは先輩遊女の仕事を助ける禿(かむろ)として働き、その後は約10年ほどの年季を課され、遊女として色を売る人生がはじまるのでした。 『べらぼう』劇中、衰弱して亡くなった朝顔は、吉原でも一流店、つまり「大見世(おおみせ)」の遊女だったようですが、年季中に病気に蝕まれ、「河岸見世(かしみせ)」と呼ばれる最下層の遊女屋に転売され、そこで息を引き取ることになりました。 吉原は厳しい階級社会です。「大見世」、「中見世(ちゅうみせ)」、「小見世(こみせ)」とつづき、最後に位置するのが、街の四方を取り囲む、お歯黒溝に面した「河岸見世」でした。 しかし、どの「見世」の遊女であろうが、年季中に亡くなると皆同様に悲惨です。 彼女たちの遺体は、三ノ輪の浄閑寺(現在の所在地は荒川区南千住)など、全部で数か所あった「投込寺」として知られた寺の敷地内か門前へと運ばれ、ゴミのように廃棄されてしまったのです。 ■衣が剥ぎ取られるどころか、遺体の一部を「再利用」されることも!? 浄閑寺の寺伝によると、「遊郭側から、誰それが亡くなったという連絡を受け、遺体が到着する前に穴を掘って準備していた」「読経などの供養はなかったが、過去帳に名前は記した」そうです(西山松之助『くるわ』の記述を要約)。そして、過去帳から判明する遊女の平均寿命はなんと「22.7歳」でした。 しかしこれは浄閑寺が非常に良心的な施設だったにすぎず、あるいは過去帳から埋葬された記録が残る遊女店主や客たちから愛されていたというだけ。基本的には寺の所定の場所に遺体は捨て置かれているだけで、鳥や獣に食わせるにまかせていたのではないか、と筆者には思われるのです。 ドラマでは遺体から衣が剥ぎ取られていましたが、これもおそらくまだラッキーな部類です。江戸時代は人間の身体の一部が薬になると信じられていましたし、他ならぬ吉原では、遊女から客への誠意の証として、身体の一部、たとえば髪や爪や小指(!)を抜いたり、切ったりして送る「心中立て」という習慣がありました。 投込寺の遊女たちの遺体の一部も密かに、あるいは公然と「再利用」されていたのではないか……とも考えてしまうのですね。華やかに見える吉原の現実は、ドラマで描かれた以上に悲惨で陰鬱だったのです。
堀江宏樹