ゴールドマンサックス元社員が暴露…エリートサラリーマンたちの凄まじい「ズルさ」と「選民意識」
ヘッジファンドの弱みにつけこむ
ビジネスをするうえでのコストには違いないが、間違っていると感じた。ヘッジファンドはにっちもさっちもいかなくなるだろう。彼らに残された選択肢は売りポジションを解消すること、つまり空売りをやめることだが、それまでにたいした儲けが出ていなければ、空売りをしつづけたいと考えるはずだ。自分たちはそこにつけこんでいるような気がしてならなかった。厳しい市場環境を乗り越えたいま、私たちは利益をあげなくてはならないというプレッシャーにさらされている。そうなるとヘッジファンドになす術すべはない。 「ああ、たしかに値上げしたばかりだ。だが、うちとの取引をやめるわけがないだろう?」彼はにやりと笑った。赤みの差した両頬は、よく熟したリンゴのようだ。ヘッジファンドはつねに空売りの手数料について文句を言っていたが、欲しい株を手に入れるにはゴールドマンに頼るしかないと思っていることは、マイクもわかっている。 「ええ、それはないでしょうね」私も同意した。「うちとの取引はやめないでしょう」空売りをする株を見つける手立てがほかにないので、このまま取引を続けて手数料を払うしかないのだ。レポートを眺めながら気が沈んだ。
有害と分かっていながら、抜けられない
マイクに給料を減額されても、ニックが会社を辞めなかったときのことを思い出した。ニックはここから抜けだせなかった。それは私も同じだ。ここがどれほど有害な場所かわかっていながら、ここを去ることはできないと感じている。すっかりゴールドマンの世界にからめとられていた。 自分のアイデンティティも、ゴールドマンと切り離すことはできなかった。電話をとるときは「ゴールド マン、ジェイミーです」と答えるし、顧客には「ゴールドマンのジェイミー」と認識されている。まるでゴールドマンというのが私のファミリーネームであるかのように。さしずめマイクが私の父親で、私は家業を辞めることができない子ども、といったところだろうか。理由は異なれど、私は自分がヘッジファンドと同じ立場にいると感じていた。