ゴールドマンサックス元社員が暴露…エリートサラリーマンたちの凄まじい「ズルさ」と「選民意識」
顧客との関係
いっぽう、私が株を借りている機関投資家の多くは、それほど市場に精通しているわけではなかった。自分が保有している株がどれほど貴重なものなのか、その株をどれほどみんなが手に入れたがっているのか、知らないことも多かった。私たちがヘッジファンドへの貸付手数料を値上げしたように、その株を貸す際の手数料を値上げできることも知らなかった。 私は規模の小さな顧客といい関係を築いていたので、彼らは自分たちが貸付ける株の手数料が適切かどうか、私なら教えてくれると思っていたことだろう。それでも、貴重な株を貸してくれた年金基金や投資信託会社は、市場が混乱するなか、顧客のために利益をあげられたことを喜んでいたと思う。
貴重な株であることは絶対に教えるな
「この株がどれほど貴重なものか、教えたりするんじゃないぞ」ある日の朝、マイクが私に言った。 手に入れにくい株を、ある小規模の顧客が保有していることがわかったと、マイクに報告したところだった。「その株ならどれほどの手数料が取れるのか知らなかったとしても、それは向こうの責任だ」結局、私はその株を借り、本来あるべき手数料よりもずっと少ない金額しか払わずにすんだ。こうしたやり方は後ろ暗く感じられ、妊娠による胸やけがさらにひどくなった。
強くなっていく、世間の風当たり
2008年に緊急経済安定化法(たんに金融救済法とも呼ばれる)が議会を通過すると、この業界の評価は地に落ちた。2008年はバーニー・マドフのスキャンダル【訳注:アメリカ史上最大規模の投資詐欺事件】で幕を閉じ、ウォール街への風当たりはかつてないほど強くなった。全国で抗議運動が起こり、ゴールドマンの正面玄関前で行われたものもあった。こうした抗議運動が、後年「ウォール街を占拠せよ」運動につながっていった。
「ウォール街を支配しているのは悪魔だ」
ある日、市場が引けたあと、ピートと私はコーヒーを飲みに外に出たのだが、そのときに初めて抗議運動を目の当たりにした。彼らは「ゴールドマン・サックス」と叫びながら、手書きのプラカードを私たちのほうへ突き出してきた。「YOU GOT BAILED OUT, WE GOT SOLD OUT! (金融は救済され、私たちは見捨てられた! )」「SATAN CONTROLS WALL STREET(ウォール街を支配しているのは悪魔だ)」と書かれている。通りを渡り終えるころ、ようやく事態を肌で感じた。 「ゴールドマンに勤めてるっていうだけで僕を判断しないでほしいな」注文したコーヒーを待ちながら、ピートが言った。「みんな、いままでとは違う目で僕を見るんですよ。ゴールドマンに勤めてるなんて、きっとひどい奴に違いないって。僕はあの人たちとは違うのに。あそこにいる人たちの価値観は、ぼくのとは違う。でも、給料がいいから。世界経済が崩壊して、家を失ったり破産したりする人たちがいるいま、ゴールドマンを辞めるわけにはいかない」