ツメアト映画~エポックメイキングとなった名作たち~ Vol.22 『ヒート』が映画界に残したものとは?
そんな『ヒート』の最大のトピックと言えば、やはり二大スター、ロバート・デ・ニーロ(1943年生まれ、当時42歳)とアル・パチーノ(1940年生まれ、当時45歳)の実質的な初共演ということである。もっともふたりは『ゴッドファーザーPARTⅡ』(1974年/監督:フランシス・フォード・コッポラ)で共に大役を演じていたわけだが、出演は異なる時制パートだったため(デ・ニーロは若き日のドン・ヴィトー・コルレオーネ役、パチーノはその息子で二代目のドンになるマイケル役)、その時は一度も同じフレームに収まっていなかったのだ。 しかし二大スター初共演を謳った『ヒート』のリアルタイム公開時、観客が驚かされたのが、「ふたりがなかなか出会わない」ってこと。まるで焦らしているかのように、映画がはじまってしばらく経っても彼らはずっと違う世界線を生きている。171分の長尺において、デ・ニーロとパチーノが顔を合わせるのはようやく真ん中あたり。ロス空港に向けてクルマを飛ばすニール(デ・ニーロ)を、パチーノ(ヴィンセント)が追跡して呼び止め、「やあ、一緒にコーヒーでもどうだ?」と声をかけるのだ。 このクルマの窓越しの会話のあと、ふたりはダイナーに移動。テーブルを挟んで向き合い、「俺たちゃ結婚に向いてないよな」とか「お前をブタ箱には送り込みたくないんだ」など、初対面かつ敵同士にもかかわらず、やたら気の合ったトークを繰り広げるのだった。 以上のほんの短い邂逅のあと、次にふたりが顔を合わせるのはラストの決着シーンだけである。この共演部分の驚愕的な少なさのせいで、「実は全部、別撮りじゃねえか?」という噂が都市伝説のように流れた。確かにふたりが一緒にいるシーンも、基本的にカットバック(切り返し)でひとりずつ撮っているので、簡単な合成でツーショット作れるんじゃね? という風に見えてしまうのだ。そこから憶測が憶測を呼び、ついにはデ・ニーロ&パチーノの不仲説にまで発展してしまったが、もちろんそれはガセネタ。安心してください、ちゃんと共演してますよ! とばかりに、ふたりがしっかり同じテーブルに座っている撮影現場写真などが後日公開された。さらに後年、ふたりは『ボーダー』(2008年/監督:ジョン・アヴネット)と『アイリッシュマン』(2019年/監督:マーティン・スコセッシ)で仲良く共演を果たしている。