左折前の“幅寄せ”で安全性がアップ!|長山先生の「危険予知」よもやま話 第28回(前編)
バイクの“すり抜け”は道交法に触れる?
長山先生:そうですね。そもそも走行車両の左側をすり抜ける行為は、道交法28条の“右側追い越しの原則”に反する可能性が高いです。進路を変えず側方を通過する場合、「追い越し」ではなく「追い抜き」になりますが、わずかでも進路変更をともなって走行中の車の前に出ると「追い越し」になります。追い越しの場合、「交差点およびその手前30m以内」は追い越し禁止になるので、それに触れる可能性もあります。 編集部:なるほど。たしか「すり抜け」には明確な規定がなかったようなので、意外と道交法に触れないのかと思いましたが、追い越しに関する違反に当たる可能性があるのですね。 長山先生:また、道交法34条第6項の「右左折合図車の進路変更の妨害禁止」にも触れる可能性があります。今回の場合では、左折しようとする車が道路の左側端に寄ろうと合図をしたら、後方の車はその車両の進路変更を妨げてはならないことになります。後続の車が急ブレーキや急ハンドルの操作をしなければならない場合は除外されますが、二輪車の運転者が前を走る車が左ウインカーを出して左側端に寄ろうとしているのを確認しながら側方をすり抜けようとしたなら、これに当たる可能性があります。 編集部:いずれにせよ、走行中の車の左側方をすり抜けるのは、道交法に触れる可能性が高いということですね。 長山先生:そう思って間違いありません。それだけ危険をともなう行為であると言えます。 編集部:でも、渋滞で完全に停止している車の左側方をすり抜けるのは問題ありませんよね? 長山先生:よく見かけますが、それも道交法違反になる可能性があります。今回の道路の左側端は路側帯ではないようですが、歩道がなく1本の白線で区切られた路側帯だった場合、軽車両(自転車)なら通行できますが、二輪車は通行できないので、白線の中を走行してすり抜けをすると違反になります。また、停止車両の側方を通過する際も、停止車両のドアが開いたり車両の隙間から人が飛び出す可能性もあるので、安全な間隔を空けたり速度を抑えて走行する必要があります。速度を出したまま、停止車両ギリギリを通過するような走り方をすれば、道交法70条の「安全運転の義務」に抵触する可能性があります。 編集部:停止車両の側方であれ、すり抜けは危険な行為で、何かしら法律に触れる可能性があるのですね。 長山先生:そうです。また、道交法に触れなくても、交差点や駐車場付近で停止車両の左側方を通過する際は細心の注意が必要です。停止していた車が急に左折する危険性があります。先ほども触れましたが、停止車両の運転者が急に思いついて左折するような場合、合図を出さずに曲がることが多く、事故になる危険性が高くなります。バイクに長く乗っている人なら、そのような危険性は知っているかと思いますが。 編集部:ただ、バイク乗りの立場から言うと、多少危険ではあるものの、すり抜けには渋滞中でも停止せず前に進めるという大きなメリットがありますから、大ケガでもしない限り完全にやめるのは難しいと思います。 長山先生:多くのライダーも同じかと思われますので、「走行中の左側追い越し」や「交差点や駐車場付近でのすり抜け禁止」など、最低限のルールや注意点は守って走行してほしいものです。 編集部:そうですね。高校生向けの「バイクの三ない運動」ではありませんが、十分注意してすり抜けを行うほうが、より現実的で受け入れやすいですね。 『JAF Mate』誌 2017年6月号掲載の「危険予知」を元にした「よもやま話」です 大阪大学名誉教授 長山泰久 1960年大阪大学大学院文学研究科博士課程修了後、旧西ドイツ・ハイデルブルグ大学に留学。追手門学院大学、大阪大学人間科学部教授を歴任。専門は交通心理学。1991年4月から2022年7月まで、『JAF Mate』誌およびJAF Mate Online(ジャフメイトオンライン)の危険予知コーナーの監修を務める。2022年8月逝去(享年90歳)。 <後編に続く> 左折前の“幅寄せ”で安全性がアップ!|長山先生の「危険予知」よもやま話 第28回(後編)
話・長山泰久(大阪大学名誉教授)