海外レポート(1):オリンピック2024に沸くパリで、ル・コルビュジエの名建築を訪ねて 「サヴォア邸」は必見の世界遺産だった
当時、使用人の部屋は屋根裏など高層部に設けられるのが伝統的な社会規範だが、地上階に設けているのはかなり先進的な間取りだ。
地上階(左側)から右側の1階(日本の2階)へと移動するスロープ(④)。
家族や招待客などは、スロープによって1階(日本の2階)に上がる。その間は、開口部からの光や視界の変化などを楽しむことができる。1階に上がってすぐに広さ86平方メートルのリビング(⑩)がある。広いリビングの最大の特徴は、テラスに面した大きな窓だ。屋上庭園がのぞめるので、広いリビングがさらに広く感じる。
リビングの横はキッチン(⑪)。パントリーを抜けるとタイル張りの調理場がある。機能的で衛生的なだけでなく、連続窓から外が見えて明るく開放的でもある。
居室部分は、ゲストルーム(⑫)、息子の部屋(⑬)、夫婦のマスターベッドルーム(⑮)など。圧巻は60平方メートルのマスターベッドルームで、オリエンタルテイストの浴室が強く印象に残る。
息子の部屋。ゲストルームと息子の部屋の間に、両方の部屋からアクセスできる浴室がある。
マスターベッドルームの浴室はオリエンタルテイスト。
ベッドルーム側から見る浴室(右)とホール(左)。
ベッドルーム部分。奥の青い壁の部屋はブドワール(小さなサロンまたは書斎)。
実はらせん階段だけでなく、スロープも屋上までつながっている。ル・コルビュジエは「建築的プロムナード」と言ったそうだが、視点を変えながら散策するかのような行程は、変化に富んでいる。1階のスロープから屋外の庭園(⑰)に出ると、2階に上がるスロープがある。この庭園には、⑯の部屋から出ることもできる。
スロープで2階まで上がるとソラリウム(⑱)がある。「半球型の防風壁は、大西洋横断船の煙突を、スロープの安全柵は船の手すりを連想させる建築様式」だという。スロープの先の壁に穴が開いており、セーヌ渓谷を見渡せる額のような役割を果たしている。 ル・コルビュジエ以前の建物は、石やレンガを堅牢に積み上げるものだったので、設計上の制約が多く、窓は小さくしかできなかった。ル・コルビュジエが考案した「メゾン・ドミノ」(床面とその内部に設置した柱で建物を支える仕組み)によって、鉄筋コンクリートの本来の利点を活かした自由な設計が可能になった。また、それが発展して「近代建築の5原則」に至る。 その近代建築の5原則を見事に実現させたサヴォア邸は、広大な敷地にぽつんと宙に浮いたように立つ白い箱のように見えた。ただ、中に入ってみると、巨大な天窓のような役割も果たす屋上庭園や連続窓からのたっぷりとした日射し、大小自由に組み合わされた居住空間、機能的で変化に富む動線など、綿密に計算されていることがよく分かるものだった。 ちなみに、広い敷地内には「庭師の住居」があり、世界遺産の対象にもなっている。こちらは改修中のため足場がかかっている状態で、見学することはできなかった。 ※パリ市内のル・コルビュジエの作品はほかにもあり、海外レポート(2)として「スイスとブラジルの学生会館」を紹介している。 ●関連サイト サヴォア邸公式サイト 注)外国語の固有名詞を日本語にする際にはさまざまな表記があるが、多く使用されている表記を使っている。
山本 久美子
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