TOB・大量保有報告制度等WG報告について
TOB制度の柔軟化・運用体制
WG報告が、TOB制度の全面的な欧州型への移行にまでは踏み込まなかった理由の一つは、欧州型TOB制度を採用している法域においては、英国では、規則制定権限を有するテイクオーバー・パネルがTOB規制の免除等を個別に審査し、ドイツでは、金融監督当局がTOBの実施義務の免除やTOB禁止の権限を有するなど、TOB制度を柔軟に適用する体制が整えられているのに対し、日本にはそれが欠けていることである。 30%以上を保有した者に全部買付義務を伴うTOB実施義務が課され、TOBの条件決定にあたって価格規制が課されるという欧州型のTOB制度は、一見するとM&Aを過度に抑制しかねないような印象を与えるが、専門機関や金融監督当局が個別事案に対する実質的な判断に基づく選択的介入を行うことで、健全なM&Aの実現が阻害されないような工夫がなされているのである。 WG報告は、こうした認識に基づき、個別の事案ごとに当局の承認を得て一定の規制の適用が免除される制度を設けるべきだとする。具体的には、別途買付けの禁止、形式的特別関係者に関する規制、TOB期間の規制、買付条件の変更の規制、TOBの撤回の規制、全部買付義務等に関する規制について規制を緩和する方向での個別対応を可能にすべきだとしている。
TOB制度をめぐるその他の提言
このほかWG報告は、TOB制度の見直しについて、概ね次のような提言を行っている。 ①多数の者(60日間で10名超)から買付け等を行い、買付け後の議決権所有割合が5%超となる場合にはTOBの実施が義務付けられる、いわゆる「5%ルール」について、顧客の流動性を確保する目的で金融商品取引業者等(証券会社等)が顧客から自己勘定で行う買付け等のうち、単元未満株式の買付け等または機関投資家等の顧客からの買付け等であって、その後直ちに売却することを予定しているものへの適用を除外する。 ②当局のガイドライン等によってTOBの予告を行う際の開示のあり方を整備する。 ③特定の大株主等から、一般株主より低い価格での応募同意を得た場合について、TOB価格の均一性に関する規制を緩和し、一つのTOBの中で異なる価格での買付け等を実施できるようにする。 ④異なる種類の株券等をTOBの対象とする場合へのTOB価格の均一性に関する規制の適用を明確化する。 ⑤公開買付届出書の事前相談における当局の対応方針を明確化する。 ⑥TOB期間中に対象会社が配当を実施した場合のTOB価格の引下げを可能にする。 ⑦TOBの撤回事由を拡充する。 ⑧TOB制度における「買付け等」の範囲を明確化する。 ⑨公開買付説明書の記載内容について、公開買付届出書を参照すべき旨を記載することで、内容を簡素化する。 ⑩公開買付届出書の記載事項を必要に応じて見直す。 TOB制度をめぐっては、対象会社やその株主に法令違反または著しく不公正な方法によるTOBを差し止める権利を付与するといった事前の救済制度やTOB規制に違反して取得した株式について議決権の停止や売却命令等の事後の救済制度を導入すべきではないかといった指摘がなされてきた(注4)。これらについてもWG報告の作成に向けた検討の過程で議論されたが、直ちに事前・事後の救済制度を設けるべきとの結論には至らず、必要に応じて引き続き検討を重ねていくこととされた。