TOB・大量保有報告制度等WG報告について
相次いだ司法判断と制度の問題点
TOB・大量保有報告制度の見直しの狙いは、こうした市場環境の変化に対応しようとすることだが、より直接的には、2021年から22年にかけて敵対的買収者に対する買収防衛策の発動をめぐる興味深い司法判断が相次いだことが検討の引き金となった。 すなわち、2021年の東京機械製作所事件(最決令和3年11月18日金判1641号10頁)では、取引所市場内で急速な株式買い集めを行った買収者への防衛策発動が容認されたが、従来のTOB・大量保有報告制度が内包する一見技術的ではあるものの重要な問題点が浮き彫りにされることともなった。 例えば、金商法は取引所市場外で上場会社等の株式の3分の1超を保有することとなるような買付けを行う場合、TOBの実施を義務付けている(金商法27条の2第1項)。いわゆる「3分の1ルール」である。しかし、取引所市場内では、買収者はTOBを行うことなく3分の1を超える水準まで買い進むことができる。しかも取引所市場内で急速な株式買い集めが行われる場合、大量保有報告書や変更報告書の提出期限が5営業日以内とされていることもあり、買収者による買い集めの実態と開示される情報とに乖離が生じ、一般投資家は不安定な地位に置かれることとなる。 一方、2022年の三ツ星事件(大阪高決令和4年7月21日金判1667号30頁)では、複数の株主が大量保有報告制度上の共同保有者に該当するかどうかが重要な争点となり、対象会社が「共同協調行動者」と認定した株主を買収者と一体視して対象とした買収防衛策の発動が裁判所によって否定された。これに対しては、当該「共同協調行動者」は実際には大量保有報告制度上の共同保有者に該当し、大量保有報告書の情報開示が適切に行われていないのではないかといった指摘もなされた(注2)。
TOB強制の市場内取引への適用と閾値の引き下げ
WG報告では、現在TOBの実施が原則として強制されない、取引所市場内での株式の買付けについても、企業支配権に重大な影響を与える場合にはTOBの実施を義務付けることが提言された。現行の「3分の1ルール」の適用範囲の拡大である。 こうした提言がなされた背景には、従来、誰もが参加でき、取引の数量や価格が公表され、競争売買の手法によって価格形成が行われるといった点で、一定の透明性・公正性が担保されていると考えられることから「3分の1ルール」の適用を免れてきた市場内取引について、前述の東京機械製作所事件でも示されたように、企業支配権に重大な影響を及ぼすような取引に関する透明性・公正性が十分に担保されないような状況が生じ得るとの認識がある。 同時にWG報告は、「3分の1ルール」の「3分の1」という数値が、株主総会の特別決議を阻止できる基本的な割合であること等から定められている点について、諸外国のTOB制度ではTOB強制の閾値を30%としている例が多いことや実際の議決権行使割合を勘案すると30%の議決権を有していれば多くの上場会社において株主総会の特別決議を阻止したり、普通決議に重大な影響を及ぼし得るものと推察されることに鑑み、閾値を30%に引き下げることを提言している。 これらの提言内容に沿った法改正が行われれば、取引所市場の内外を問わず、上場会社の議決権所有割合が30%を超えることとなるような買付けを行う場合については、原則としてTOBの実施が強制されることとなる。 なお、現行法では、市場内外の取引を組み合わせた急速な買付けを行って3分の1超の株式を保有しようとする場合のTOB実施の義務付け(金商法27条の2第1項4号)や既に3分の1超の株式を保有する者が他の者によるTOB実施期間中に5%超の買付けを市場内外で行う場合のTOB実施の義務付け(金商法27条の2第1項5号)といった規制が設けられているが、WG報告は、これらの規制については、「会社支配権への影響も考慮しつつ、制度の目的に照らして過剰な規制とならないようにすべき」といった原則的な考え方を提示したものの、具体的な見直しには言及しなかった。