TOB・大量保有報告制度等WG報告について
将来課題とされた欧州型規制への移行
取引所市場の内外を問わず、上場会社の議決権所有割合が30%を超えることとなるような買付けを行う場合にTOBの実施が強制されるというWG報告の提唱する制度は、上場会社の株式の30%以上を保有した者に対してTOBの実施を義務付けるとともに、応募株式すべてを取得する全部買付義務を課すという英国やEU諸国で採用されている欧州型のTOB規制に近いものだといえる(注3)。 欧州型のTOB規制は、TOB制度を支配権異動の場面において少数株主が公平な価格で売却する機会を確保するための制度と位置付けたものだとされ、幅広いTOB強制や全部買付義務すなわち部分買付けの禁止とともに、時価より低い価格や過去一定期間内に買収者が買付けた価格よりも低い価格でのTOBの実施を禁止するといった内容の規制も含んでいる。 今回のWG報告の作成に至る検討の過程では、日本のTOB制度を全面的に欧州型に移行することも議論されたが、健全なM&A(企業の買収・合併)を阻害しないよう例外を柔軟に認めるための体制が必要であるとか少数株主の保護のあり方をめぐる幅広い検討が必要であるといった意見が出され、直ちに欧州型の規制に移行すべきとの結論には至らなかった。将来的な欧州型の規制への移行の可能性も念頭に置きつつ、前述のTOB強制の適用範囲や部分買付けの許否といった各検討課題について個別の検討が行われることになったのである。 このうち部分買付けの許否についてWG報告は、支配権取得後に対象会社の企業価値の減少が予想される場合に、一般株主において、企業価値の減少による不利益を回避するため、TOB価格等に不満がある場合であってもTOBに応募するインセンティブが生じるという問題(いわゆる「強圧性」の問題)が指摘されていることや按分比例の決済となるためすべての応募株式の売却が担保されず、一般株主に十分な売却機会が与えられないといった問題があると指摘する。しかしながら、望ましいM&Aを阻害する効果も伴い得るといった意見があったとして、部分買付けを原則として禁止するといった制度改正までは提言しなかった。 ただし、部分買付けを実施する際には公開買付者及び当該部分買付けに賛同する対象会社が一般株主の理解を得るよう努めることが望ましいとし、そのような取組みを促すための方策を検討すべきとの提言がなされた。また、全部買付けを行おうとした公開買付者が、TOBの成立後に追加応募期間を設けることを希望する場合には、任意にこれを設けることができるよう制度を整備することが適切だとの提言がなされた。