TOB・大量保有報告制度等WG報告について
はじめに
2023年12月25日、金融庁の金融審議会公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループの報告書(以下、WG報告)が公表された(注1)。WG報告は、2023年3月に開かれた金融審議会総会での鈴木俊一金融担当大臣からの諮問を受けて行われてきた審議の結果を取りまとめたものであり、2024年の通常国会には、WG報告の提言内容を実現するための金融商品取引法(以下、金商法)改正案が提出されるものと予想される。
検討の背景
株式公開買付(TOB)制度は、上場会社等の株式を多くの株主から大量に買付ける者に対して、一定の情報開示やルールの遵守を義務づけている。その主な目的は、株主(投資家)が買付けに応じるべきか否かを合理的に判断できるようにすることである。 一方、大量保有報告制度は、経営支配権の異動をめぐる透明性を確保するために、上場会社等の株式を総議決権の5%を超えて保有する者に対して一定の情報を開示させる制度である。大量保有報告書を提出した者は、原則としてその後1%以上の変動が生じた際にも報告義務を負う。ただし、機関投資家等による経営支配権に影響を及ぼさない「純投資」目的の株式保有については、報告頻度や開示情報の内容を簡素化した特例報告制度が適用される。 TOB・大量保有報告制度の見直しは、2006年の金商法制定時に行われた改正以来17年ぶりである。このような検討が行われることとなった背景には、近年の企業買収をめぐる環境変化がある。 かつては、日本では対象会社の同意を得ない敵対的企業買収は現実化しにくいといわれていたが、ライブドアによるニッポン放送株式の大量取得(2005年2月)などが起きた2000年代後半以降、そうした見方は過去のものとなった。加えて2013年以降、機関投資家と投資先企業の建設的対話を通じて企業価値の向上を図るスチュワードシップ・コードと証券取引所が上場会社に対して取締役会の経営監督機能強化などを求めるコーポレートガバナンス・コードという二つのコードを車の両輪とするコーポレートガバナンス改革が進められている。改革の進捗とともに、上場会社の大株主となって経営戦略の転換や経営陣の交代を働きかけるアクティビスト株主(物言う株主)の活動も盛んになっている。