[立川談笑さん]甲状腺がんの診断に「落語をできなくなるかも」…つらかった脂肪ゼロ、ヨウ素制限の食生活
もっと難しいヨウ素制限食
――次があったんですか。 脂肪制限食から1か月ぐらい間をあけて、その後、ヨウ素制限食がありました。 2週間ぐらい、ヨウ素を含まない食事を取ってから、放射性ヨウ素の錠剤を飲むんですね。少しだけ残ってるかもしれないがん細胞を放射線でやっつけるためです。錠剤を飲むにあたっては、体内のヨウ素を減らす必要がある。ヨウ素が欠乏している状態で、放射性ヨウ素を入れると、手術で取り切れなかったがんにピッと付着をするんだという説明でしたね。 ふだん、ヨウ素なんて意識したことないじゃないですか。何が禁止かというと、要するに昆布、わかめがダメ。昆布だしもダメ。あんまり大したことないなって思ったんですけど。 ――脂肪ゼロよりは我慢できそうですね。 そう思いきや、いや、意外に意外に。 いろんな食品に昆布エキスが入っているんですよね。あれもダメ、これもダメみたいな。ラーメンとか、うどん、すしめし、みそ汁。中華だし、うまみ調味料などにも入っている可能性がある。どこに入っているかわからない。 脂肪制限に比べて、ステルス性が高いというか、ぱっと見わからない。成分表を見ないといけないし、成分が明らかになっていないものは食べられないし。外食はもう危ないからできなかった。 ――脂肪制限とヨウ素制限。どっちがつらかったですか。 比べれば、難しいのはヨウ素制限食のほうでしたね。 意外につらいんですよ。面倒くさいというか神経を使います。何よりきちんと治したかったので。完全に治すためにヨウ素を欠乏させなくちゃいけないんだってことですから、いいかげんにやって無効にしちゃったら、意味がない。 文句ではないんですけど、手術にあたって、脂肪制限のことも、その後のヨウ素制限のことも聞いてなかったんですよ。 ――本当に聞いてなかったんですか。 聞いていたけど忘れていたんでしょう。手術の後に声が出るかどうかの心配で頭の中はいっぱいでしたから。 ――その後、放射性ヨウ素の錠剤を飲むわけですか。 無機的なコンクリート造りの個室で、担当の先生から説明を受けて、その先生が別室から放射性物質が入ったカプセルと、水の入った小さな紙コップを持ってくるんですよ。 ただの小さな普通のカプセルなんですけど、放射性の取り扱い注意の物質だそうで、先生も鉛みたいなガードをしている。その先生もいなくなって、一人ぼっちでカプセルを飲みました。すごく非現実的な感じでしたね。映画の「マトリックス」みたいでした。 ――え? 「マトリックス」? 「マトリックス」で赤いカプセルを飲むシーンがあるでしょ。これを飲んだら元の仮想世界に戻れないっていう。 私も飲んだその瞬間から、放射性物質を体内に持っている男になるわけですから。 先生からいろんな注意を受けました。飲んだ日は、家族と近づいちゃいけない。家でも、家族からなるべく離れた部屋にいてください。自分の入ったお風呂に家族が入らないようにしてください。トイレもしっかり流してください。2回以上流すだったかな。その日は都内でビジネスホテルに泊まりました。その後もしばらくは子供にはあまり近寄らないようにして。