【オートレース】初日の7着から見事に立て直した有吉辰也 48歳の2025年が始まった~伊勢崎G1シルクカップ
◆第48回シルクカップ(G1、10日・2日目、伊勢崎オートレース場) これは、ただ自分のためだけの1着ゴールではなかった。彼を助け、彼を気遣い、彼を心配する者たちのためにも、今すぐに出さねばならぬ結果だった。 2日目・6R「予選」を有吉辰也が豪快に抜け出した。序盤から本来の迫力と切れのある動きでライバルたちを圧倒。初日7着から激しく巻き返した。 レース後、若手たちは不倒の飯塚エースを畏怖するような目と口調でこう言い合った。「やっぱり、超一流は立て直すのがマジで早すぎる!」と。 昨年末、最後の一週間はタフでシビアで切ない試練が有吉を襲い続けた。先月30日のスーパースター王座決定戦トライアル4回戦。有吉は道中で手痛い不利を受けて、コース上へ愛車と共に叩き落とされた。予選ポイントは何とかベスト8をクリアし、その時点で大みそか決戦へのエントリーは決まったが、高いレベルで整いつつあったマシンは虚しくも大破した。 アクシデントの後、それこそ突貫工事のごとく、多くの選手たちのアシストを賜り、なんとかエンジンを復旧させ、SS王座決定戦への出場には間に合ったが、さすがに完調には程遠く、最下位の8着にごう沈した。 トライアル4回戦で有吉を妨害してしまったのは、奇しくもあの荒尾聡だった。「選手としてだけでなく、人間として最も尊敬するのが有吉さんです」と言い続け、目標にする男を窮地へと追いやってしまった。これがオートレースという競技の怖さであり、難しさであった。 しかも、普段の荒尾はどの選手よりもクリーンでセーフティーな走りを心がけ、実践するレーサーでもある。それでも事故が起きる時は起きてしまう。あるいは落車した有吉と同じぐらい、加害者となった荒尾もまた心を深く痛め、沈痛な立ち位置で有吉とマシンの安否を気遣い続けていた。それは有吉本人が一番理解している。だからこそ、すぐに結果を出して、有吉健在を証明したかった。 今大会初日は7着。やっぱりSSの後遺症は長引いてしまうのか…。そんな重い空気が流れかけたところで、有吉は底力をフル発揮して勝利をたぐり寄せた。「まあ、実を言いますと、ただ単に初日は良くないタイヤを自分が使ってしまっただけなんです(苦笑)。若手が一流は立て直すが早いと驚いていた? いやいやいや、本当の一流はそもそもそんなタイヤを使わずにすぐに気づいているという話です(苦笑い続く)。でもまあ、いろいろありましたが、何とか結果を出すことができて、それが本当に一番ですね。これで荒尾も安心できる? あのう、サトシに言っておいてください。何を心配なんかしているんだ、そこまでオレを見くびるなよ~ってね。はははっ(思いやりある声色で笑う)」 この気配りに満ちた言い回し、相手への温かい思いやりこそが荒尾だけでなく、多くの選手たちから尊敬を集め、「本物の一流」と称される所以なのである。懐深き有吉辰也、ここにありです。 そして、今シリーズを含めて、2025年の展望を有吉が明るい表情で伝えてくれた。「もう、去年のSSは本当にいろいろなことがありすぎました。あのさあ、SSってその一年間を頑張った、業界を代表する16人が集結する大会ですよね。でも、それなのに頑張った16人がその年最後の一週間で一番つらく、大変な思いをするなんて、もうどうなんですかね(苦笑)。せっかく頑張って、SSに出ることができたのに、毎日、毎日、すごいメンバーとすごいレースを戦わなければいけない。ワンミスが命取りになって、もう体力も精神も全部がメッチャ疲れ果てちゃう。もう、マジできついって~。でもなあ、それでも大会が終わると、また次の年も出たくなっちゃう。悔しい思いばかりを経験するのに、なぜかまた一年を掛けてSSに戻りたくなっちゃうんです。あそこに出るとこの年になっても、すごく自信になるんですよね!」 今年も飯塚の大エースとして、ライバルたちにリスペクトされる存在として、SS決戦への再エントリーを目指して、戦っていく。48歳、有吉辰也の2025年シーズンがいよいよ始まった。
報知新聞社