ユダヤ文化を知る――京都の職人が作ったコマがイスラエル人に大好評だった話
ロシアのフィギュアスケート選手にもコマのお土産を
ユダヤコマ作りの経験は、相手国の文化を踏まえて、その土地に合わせたものを作る必要性を改めて実感した契機となった。当初は、本当にユダヤ人に受け入れてもらえるだろうか、独りよがりのプロジェクトなのではないかと悩んだこともあったが、実際にコマを買ってくれる人を目にして、自分が考えた方向性は概ね間違っていなかったという手応えを得た。 2021年5月、共通の知人を介して、ロシアの女子フィギュアスケート選手であるエフゲニア・メドベージェワさんとお会いすることとなった。言わずと知れた平昌オリンピックの銀メダリストであり、セーラームーンの衣装を着て演技するなど、日本文化に高い関心を寄せていることでも知られている。 そんな人に会うならば手土産が必要だ。よくある日本のお土産を持っていくこともできるが、何かオリジナリティ溢れる手土産を渡せないか。フィギュアスケートには詳しくない筆者が、予習をしようとYouTubeで彼女の演技を見た時のことだ。ちょうどコマのプロジェクトを終えたばかりという時期もあって、氷上を優雅に回転する彼女の姿とくるくる回るコマが重なった。彼女をモチーフにコマを作れたら面白いかもしれない。ダメ元で中村さんに連絡し、相談してみた。 中村さんは少し考えた末に、一つの作品を作ってくれた。それは、真ん中の心棒が左足になっており、右足を両手で抱えるメドベージェワさんを模したコマだった。コマを回すとあたかも本人がキャメル・フォワードの技を繰り出すようにきれいにスピンしている。 本人に手渡すと大変喜んで、自身のインスタグラムでも紹介してくれた。それから数日間、中村さんのインスタグラムのコメント欄はロシア語で溢れたそうだ。手渡した相手が喜んでくれたことも嬉しかったが、店で売られているものを買うのではなく、お土産づくりに自分も関われたことに喜びを感じた。コマという「共通言語」を通して、小さい規模感ながら、他の国の人と交流することができたのは、大きな自信となった。