あばれる君「教育実習で仕事量にゾッとした」現在の教員の働き方に思うこと
◆名古屋大学教授(教育社会学)内田良氏の「専門家の目線」
教員の労働問題は、教育業界関係者の中ではすでに十分すぎるぐらい認知されています。ただ、文部科学省だけが動いても予算はなかなか得られないですし、働き方については職場である学校だけでなく、保護者や地域住民を含めた社会の皆さんの理解も必要になります。これから先、この問題がどのように扱われていくかは「世論」次第になると強く感じています。だからこそ、あばれる君のように著名な方が、実体験など踏まえながらこの問題について発信してくれるのは、関係者の一人として非常に心強いなと思います。 待遇改善にはもちろん賃金面なども含まれますが、教員にとって最大のモチベーションは、やっぱり「子どもたちと向き合う」ことなんです。 実際、長時間労働削減の取り組みに成功したある学校の先生方に話を聞いたところ、皆さん口を揃えて「時間ができたことで、授業準備がちゃんとできるようになった」「学びを通して子どもたちと触れ合えるようになった」ことが嬉しいとおっしゃるんです。先生がそうなると、子どもたちも授業が楽しくなり、学校が楽しい場所になってくる。信じ難いことに、その学校は5年間で不登校児が40数人から3人にまで減ったそうです。 教員が子どもに向き合える時間が増えることで、授業が楽しくなり、不登校も減り、学校が落ち着いていくという好循環が生まれたわけです。逆に、忙しさのせいで子どもに向き合う時間が減り、授業等が雑になってしまうことで、新たなトラブルが起きてしまい、その対応に割く時間が大きくなり、さらに子どもたちに向き合う時間が減って…という悪循環が生まれてしまいます。このように「教員の働き方問題」とは、教員本人はもちろん、子どもたちにも直接的に大きな影響がある問題なんですね。 そして、教員の長時間労働が解消されない要因は、教育現場のせいだけではありません。「社会が学校に依存しすぎている」という問題もあるんです。例えば、放課後に子どもが公園などで遊んでいて、うるさかったり迷惑だったりすることがあると、地域の方は学校に電話します。連絡があると、先生たちは当たり前のように対応されていますが、本来は学校から下校したら、子どもたちは各々の保護者の管理下にあるわけです。こういった問題を解決するためにも、地域や保護者と教員とが、もっと話をできる場があるといいなと思っています。 あばれる君が言及してくださって特にありがたいなと思ったのは、「教員も保護者」だということ。お父様が教員だったことで、より伝わってくるものがありますよね。学校の問題となると、どうしても「教員vs保護者」の構造で捉えてしまいがちですが、一緒の立場で問題を考え、解決していけるようになるといいなと思います。 これから卒業式のシーズンを迎えます。卒業生から「先生、今までありがとう」と言われると、教員はそれまでどんな苦労があっても全てを美談として捉え直し、問題を問題と認識しなくなる傾向があります。気持ちはとてもよくわかります。しかし、それではいけないんです。 ---- あばれる君 1986年生まれ、福島県出身。2008年、大学生のお笑いアマチュア大会で特別賞を受賞し、養成所に特待生入所。芸人としてデビュー後、フジテレビ「めちゃ×2イケてるッ!」の新メンバーオーディションで注目を集め、2015年R-1グランプリで決勝進出。中学・高校教員免許(社会)を持つ。 内田良 名古屋大学教授(教育社会学)。博士(教育学)。1998年名古屋大学経済学部卒業。2003年同大学院教育発達科学研究科博士課程修了。学校におけるリスクとしてスポーツ事故や校則、教員の部活動負担・長時間労働の事例やデータを収集。隠れた実態を明らかにする研究をおこなう。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『学校ハラスメント』(朝日新書 2019)がある。 文:田中いつき (この動画記事は、TBSラジオ「荻上チキ・Session」とYahoo! JAPANが共同で制作しました)