「マスメディア」以上に「SNS」が社会を揺り動かした2024年…匿名の「心の声」を“信じてしまう”のはナゼか
「偏向報道」
こうして「SNSがオールドメディアに勝った」、「オールドメディアは偏向報道ばかり」と述べている人たちのツイートを見てみると、自分が信じている論と違う報道であればすべて「偏向報道」と見なしてしまっているケースが散見される。 さらに彼らがもう1つ気付かねばならないのは、そもそもメディアは偏向なしには存在し得ないことだ。言ってみれば、世界で様々な事件・事故・出来事が起きているなか、限られた自媒体のページ、紙面、尺内で何を報じるかをすでに選択しているわけだ。 実際、被害者や遺族取材では「私の家族も大きく取り上げられているあの事故と同じように複数亡くなっている。それでもこちらは小さな記事になっただけでメディアは取り上げてくれない」という声をよく聞く。 「メディア」と言っても、それを動かす中身は「人間」。何を取り上げどう書くかに対しては、どうしても傾向は生じてくる。だからこそ、様々な媒体に「色」がつくわけだ。 これは裏を返すと、枠のないネットにおいては、その枠の形成を受け手自身が行わなければならないことを意味する。その作業を誤ると、結果的にどの媒体よりも偏った「紙面」ができあがってしまうことを忘れてはいけない。
オールドメディアの問題点
とはいえ、オールドメディアに問題点がないのかといったら全くそんなことはない。 これまでにもたくさんの誤報や不適切な報道、偏向報道は少なくない数なされており、先述通り、筆者自身も問題視している。 しかし、オールドメディアの信頼性が落ちたからといって、持論と異なる報道をするメディアを全否定し、自身に都合のいいSNSの情報を「信頼できる」とするのは、情報リテラシーがあまりにも破綻している。 マスメディアの報道姿勢の見直しは当然必要ではあるが、情報の受け手にも、多角的な視点と、入ってきた情報に対する「裏取り(確認作業)」や「ファクトチェック」の習慣と技術を身に付けておく必要があると、昨今のSNS信者の言動をみてつくづく感じるのだ。 橋本愛喜(はしもと・あいき) フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許を取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働問題、災害対策、文化差異、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆中。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)、『やさぐれトラックドライバーの一本道迷路 現場知らずのルールに振り回され今日も荷物を運びます』(KADOKAWA) デイリー新潮編集部
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