目指すは水晶の玉のような勘三郎さんのお光。中村鶴松が『新版歌祭文 野崎村』への意気込みを語る!!
『野崎村』お光の扮装写真。この愛らしさ、健気さは鶴松さんならでは♪ ちなみに撮影したのは、1月に急逝した篠山紀信先生。亡くなる直前まで、お仕事をされていたんですね……。それにしても歌舞伎座でもよく撮影されていた篠山先生がお亡くなりになったのは本当に寂しいです。
鶴松 かいがいしく親の世話をやきながら暮らしている純朴な娘です。久松との結婚を控えて、うきうきと準備していたら、相手には恋人がいて。でも、誰を責めるのでもなく、好きな人の幸せのために自分の幸せを諦めて、しかも尼さんになってしまう。本当にピュアでまっすぐな可愛らしい女性です。 前半は、機嫌よく、元気に働いているんですけれど、後半、自分が身を引くと決めてからは、しっとりとした雰囲気になるので、その落差を大事にしたい。それと、お染はいいところのお嬢さん、一方、お光は貧しい田舎娘なので、お染との対比がしっかり出るように演じたいです。 じつは勘三郎さんが20代半ばのとき、国立劇場でお光を演じた際の映像を観たんです。当時の勘三郎さんは、まだほっそりしているんですけれど、本当にもう可愛いんですよ。大根を切ったり、お灸をすえたりっていう日常の動作の中にも純朴さがにじみ出ているような感じで。何にも染まっていないというのかな。まるで水晶の珠みたいなんです。 小僧 それはすごいですね。 鶴松 その壁は、すごく高くて、僕にはなかなか登れないですけれど、少しでも近づけるように必死にやりたいと思います。僕が勘三郎さんに、唯一、きちんと教えていただいた大人の役が2010年大阪平成中村座での『俊寛』の千鳥で、その千鳥的な可愛らしさっていうのは、お光にもあっていいんじゃないかなと思っていて。昔、教えていただいたことをしっかり思い出しながら、今回の舞台につなげたいですね。 部長 物語のラストは、父親と二人っきりになったお光が、声を振り絞るようにして、「ととさん!」と叫んで終わるという切ない幕切れですよね。 鶴松 お光が久松への気持ちをどれくらいふっ切っているか、というところがひとつポイントになってくると思います。国立劇場の勘三郎さんのお光は、今までためてきた感情が全部あふれちゃったみたいな感じで、「ととさん!」と泣き叫ぶんです。 一方、七之助さんは、最初は思いを吐き出すんですけれど、最後のほうは、完全に悟ったお光になっているように感じました。久松への気持ちはもう完全にふっ切れている。それでもちょっと思いがこぼれちゃったという感じで。 だから、その塩梅が難しいですよね。今回は七之助さんに教えていただくので、ご相談しながら、自分が腑に落ちるところを探して完成させていきたいと思っています。 小僧 なるほど! ということは、初日と千穐楽では、違うお光になっている可能性もありますね!? これは楽しみです。