「これって変だ」銀行員の大胆な機転、120万円振り込ませず済んだ
島根銀行のベテラン行員は9月、取引状況が怪しい顧客口座に気づいた。 口座は島根県内の40代男性名義。毎月の給料振り込みや光熱費の支払いなどに使われる普通預金口座で、銀行内では「生活口座」と呼ばれるものだ。 【写真】詐欺に気づいた91歳、あえて通帳差し出した なのに、ある日を境に数千円、数万円単位の入金が相次ぐ一方、数十万円単位で数回、他人名義の口座に振り込む取引が確認された。 「これって変だな」 島銀本店業務管理グループの次長で、マネーロンダリングや金融犯罪の対策を担当している佐佐木みゆきさん(50)は思った。 これは「簡単に稼げる副業がある」などとSNSで誘って、序盤は「見せ金」でもうかったように装い、あとで「損失が生じた」「違約金を」などと要求する特殊詐欺の被害ではないか――。部下の佐藤倫子さん(41)に、口座名義の男性に連絡を取るよう頼んだ。佐藤さんが電話を数回かけたがつながらず、その間も、口座の数字は動いた。 この日は金曜。そして夕方になった。「もし特殊詐欺であれば、銀行が業務を休む週末を挟めば、もっと被害が大きくなるのでは」。佐佐木さんは案じた。 島銀は普段、顧客に連絡せずに口座を凍結することはない。「週末にATMなどが使えずお客様が困るかもしれない」とも頭をよぎった。 しかし、2人は決断した。「止めましょう!」 上司に報告し、口座を凍結。男性にはメールで「多額の振り込みがありましたので口座を凍結しました。『副業詐欺』が頻発していますが、大丈夫ですか」と知らせた。 後に分かったことだが、男性は「動画を送れば稼げる」などとうたう特殊詐欺の被害に遭っていた。被害額は約77万円だったが、さらに友人らから借金をして120万円を振り込む寸前だった。 その直前に島銀からのメールに気づき、松江署に相談して、さらなる被害を免れた。 2人は23日、松江署から感謝状を贈られた。佐佐木さんは「お客様と連絡がとれない中での決断でしたが、一時的に停止して良かった」。佐藤さんも「ふだん自分たちが考えている、想定どおりの被害でした」「実際に被害にも遭っておられますが、それ以上の被害を防止できたのはうれしく思います」と話した。 松江市内では今年、11月末までに14件の特殊詐欺被害が発生し、被害額は約2907万円に上っている。伊藤益彦署長は「機転を利かせて被害の拡大を防いでいただき、ありがたい。ほかの金融機関にも(好事例を)広報したい」と感謝の言葉を並べた。(中川史)
朝日新聞社