日鉄会長、「諦める理由も、必要もない」 USスチール買収巡り法廷闘争の長期戦覚悟
日本製鉄は7日、橋本英二会長兼最高経営責任者(CEO)が記者会見し、米鉄鋼大手USスチールの買収計画を巡り、買収阻止命令を出したバイデン米大統領を訴える異例の法廷闘争に踏み切った背景について、命令の違法性に加え、買収は中国に対抗して日米の鉄鋼産業が発展するための最善の方法だとの考えも示し、「諦める理由も、必要もない」と強調した。 ■労組と特定企業が結託 「USスチールの競合メーカーのクリーブランド・クリフスのゴンカルベスCEOが、USW(全米鉄鋼労働組合)のマッコール組合長(会長)と連携し、組合が有する強大な政治力を利用してバイデン大統領に働きかけた。この働きかけに政治的な理由から応じた」 会見で橋本氏は、対米外国投資委員会(CFIUS)の審査が、労組と特定企業の結託に伴う政治介入で、国家安全保障の観点で適正に実施されなかったとする構図を指摘した。クリフスは、経営強化のために身売りを決断したUSスチールの買収に名乗りを上げ、買収についてUSWとも合意していた経緯がある。 ■日米鉄鋼連合に強い思い 米国の制度では、安全保障に絡む大統領の判断の是非を裁判では問えないという。だが、日鉄は訴訟を通じてライバル企業の不当な妨害行為の事実、その影響による、安全保障とは無関係のバイデン氏の判断の違法性を明らかにすることで「勝訴のチャンス」(橋本氏)はあるとみる。 「(勝訴の可能性が)何%の確率とか、(裁判が)どのような期間になるのかはいま申し上げるタイミングではない」と、法廷闘争が先の見えない難路であることは橋本氏も認める。それでも買収にこだわるのは、日米鉄鋼連合の実現に強い思いがあるからだ。 中国の過剰生産と安値輸出の拡大で、世界各国の鉄鋼業の経営環境は厳しい。USスチールは昨年12月、10~12月期決算が最終赤字になるとの見通しを示しており、訴訟が長期化すれば同社の経営基盤の弱体化が進みかねない。日鉄も内需が縮小する中、成長を見込む米国事業の強化策の停滞は、中国対抗の基盤づくりの遅れにつながる。 橋本氏は「バイデン氏の不当な判断によってそのリスクは既に生じている」と憤りをあらわにする一方、だからこそ買収を通じて日米が協力することが極めて有益だとし、「これ以上に米国の鉄鋼業を強くする道があるとは思えない」と、長期戦も辞さない構えだ。