「知的障害があっても良い親になれる」と政府が明言するイギリス 公的医療サービスが支援する先進地で見た日本との違い
支援を受ける親からは「子どもとの接し方やお金のやりくりを教えてもらい、人として成長できた」「他の親仲間と知り合い、自分は1人じゃないんだと思えた」といった声が出ているという。 パーネルさんはこう話す。「知的障害者は貧困や虐待の経験などから、困難な状況に追い込まれやすく、それらも育児を難しくしている。そういった要因も考慮に入れる必要がある。障害ばかりに目を向けるのはアンフェアだ」 ▽「育児の支援を受ける権利がある」と明記 英国では、当事者からの要望を受け政府が知的・発達障害の親たちと2006年に意見交換。翌07年には支援に関するガイダンス(手引)を作った。「『知的障害のある人たちも良い親になることができ、子育てを通じて社会に貢献できる』という明確なメッセージを発信したい」とうたい、「育児のサポートを受ける権利がある」と明記した。 慈善団体なども知的障害者や支援者向けに性行為や避妊方法、育児などに関する資料を多数作成。障害者団体のまとめによると、その数は約80種類に上る。当事者向けの冊子などは、イラストや平易な言葉を使って分かりやすく作られている。
支援に当たる専門職や研究者らのネットワークもあり、そうした点では日本よりもかなり進んでいる。 ▽「政府の施策は実態を伴っていない」 だが、現場からは不満の声も上がる。 「福祉職から差別的な扱いを受けた」「ちゃんとサポートを受けられない」 6月中旬、ロンドン市内にある障害者支援団体の会議室。知的障害や発達障害のある親たちが週に1回集まって相談し合う会合で、こうした訴えが相次いだ。 アンナさん(30)=仮名=は1歳から8歳まで3人の娘がいるが、同じく障害のある元夫が精神的に不安定だったため、裁判所が「養育不能」と判断。3人とも養子縁組で他の親に引き取られた。 「福祉職は私たちに寄り添って支援するのではなく、『障害があるから子育てはできない』と短期間で判断してしまう」 筋ジストロフィーの娘(21)を持つジョアンヌさん(44)は、自身も軽い知的障害があるが、診断を受けたのは8年前。それまで自分への支援は何もなかった。「福祉の仕事が厳しいため辞める人が多く、担当者が頻繁に入れ替わって話にならない」とため息をつく。