恐ろしい…ジャック・アタリ氏が「人工化」を“脅威”と呼ぶワケ 人類が辿る〈自滅〉のシナリオ
人間関係の人工化
人間関係にヴァーチャルなものが入り込んだのは、郵便によって長距離コミュニケーションが始まったときからだ。今日、ヴァーチャルなコミュニケーションにより、あらゆる人間関係が可能になった。たとえば、一人あるいは複数の同僚と遠隔で仕事をする、一人または複数の友人、一人あるいは複数の性的パートナー、一人あるいは複数のある程度長続きする愛人を遠隔に持つことなどだ。 ホログラムを使うようになると、人間関係のこうした選択はさらに極端になる。ホログラム自身が、人間の仕事、友情、恋愛、政治に関与するようになる。ホログラムというヴァーチャルな存在は、独自の人格、情熱、愛、気まぐれ、倒錯を持つ。ホログラムは人間の会議に出席し、人間に代わって判断をくだす。ロボットが人間を雇うようになる(すでにそうなっている)。
権力の人工化
いつの時代も、服従(しばしば隷属という喜び)と引き換えに安全を提供する者が権力を握る。これまでに紹介した人工化は、権力の人工化のための準備だ。安全に関するあらゆる種類の保障は、コスト削減のために自動化される。予防、すなわち予測と権力者の定める規範に準じた要求の基準は、大幅に引き上げられる。すでに語ったように、私が「自己監視」と呼ぶ新たなツールにより、病気、能力低下、違法行為などは、予測可能になり、誰もが権力者の課す規範の遵守を、測定、予測、管理できるようになる。こうして全員が、行政官、医師、教師、警察官の助手のような存在になる。「自己監視」ツールにより、個人の砂糖摂取許容量や、排出可能な二酸化炭素量まで管理可能になる。 情報開示が義務になり、身元、履歴、健康状態、学歴、職歴を隠そうとする者は、先験的に疑わしい人物と見なされる。実際に犯罪を実行する前であっても、危険人物として扱われる。 権力のおもな特性は予測することであるため、世界を支配するのは予測マシーンになる。人間が遵守しなければならない規範を定めるのは、予測マシーンだ。聖職者に代わって兵士、兵士に代わって商人となったように、商人に代わってマシーンが権力を握る。マシーンは人類を支配するだけでなく、消滅させることさえできる。 これらの人工化が進行すると、2つの甚大な影響が生じる。その素地はすでにできている。