この中華鍋がなければ横浜中華街の「味・価格」は変わっていたかも? カリスマ中華鍋・山田工業所の工場を訪ねて分かった人気の秘密
■破格の卸値の理由は「取引先に儲けて欲しいから」
前段で触れた通りの手間がかかっている山田工業所の中華鍋ですが、その価格は数千円~と特段高いわけではない点もかなり魅力です。しかし、ここで思わぬ複雑な思いを抱いたことがあるとも2代目・豊明さんは言います。 「昔ね、私が出たテレビを見たお母さんから連絡がありました。その息子さんが都会で中華料理の修行をし、地元に帰って独立したお店を始めるのだと言います。そこでお母さんは、息子さんに対し『中華鍋をお祝いにプレゼントしたい』と言うわけです。その話を聞いて、うちでは卸値でお母さんに販売しようと思ったんだけど、お母さんはその価格を聞いて愕然としていました。『そんな安いのはダメです。お祝いですから高いのでないと』と言うわけです(笑)。『いやいや、一般で高額で売られているのと同じですよ』と言ってもなかなか理解してくれなくて困った、ということがありました(笑)。うちでは『卸先の業者さんに儲けてもらおう』と考えているので、実はうちの卸値はとても安いんですよ。でも、それは『うちが良いことをしているんだぞ』と言いたいわけではなくて、あくまでも取引先の皆さんと一緒に仲良く仕事を続けていきたいからなんです。だからこそ、いざとなった場合は卸先であっても文句を言うし、やりたくないことはやらないとも言う(笑)。でもお金のやり取りだけで『人の気持ちを蝕む』ような取り引きは私はイヤですね。そろそろ息子の世代だから、また変わっていくかもしれないですけど、これからも従来の中華鍋の作り方、私たちのやり方で続けていけば良いと考えています」(2代目・豊明さん) 山田工業所の中華鍋がカリスマ視されるのは、使いやすさなどの特長だけでなく、こういったいぶし銀のアツい企業姿勢も理由のひとつのように思いました。 中華鍋の購入を考えている方は山田工業所の中華鍋をぜひチョイスしてみてはいかがでしょうか。実用面での優位性はもちろん「持っているだけで、気持ちが高ぶる」一品です。
<取材・文/松田義人(deco)>