この中華鍋がなければ横浜中華街の「味・価格」は変わっていたかも? カリスマ中華鍋・山田工業所の工場を訪ねて分かった人気の秘密
横浜中華街に無数にある、大小の中華レストラン。このうち、ゆうに9割以上のコックが使っているという中華鍋があります。地元・横浜に工場を構える山田工業所の中華鍋です。 【詳細画像をチェックする】 「山田工業所の中華鍋がなければ、横浜中華街の味や価格も今とは違うものになっているだろう」と言い換えることもできる、横浜中華街大貢献の中華鍋なのですが、一般にも販売されており、料理好きの間ではカリスマ視されるほどの人気です。 また、料理好きの有名なJポップアーティストが山田工業所に頼み込み「中華鍋コンサートグッズ」をオーダーするなど、その名はいわゆる食のプロや食通を飛び越え、一般にも知られるようにもなりました。 そんな山田工業所の中華鍋。どんな点が優れているのでしょうか。また、一般家庭で中華鍋を使っての料理は機会が限られているため、正しい使い方もイマイチよくわからないところ。そこで今回は山田工業所の工場を訪ね、3代目の山田憲治さん(以下、3代目・憲治さん)、2代目の山田豊明さん(2代目・豊明さん)に話を聞きました。
■鉄板を5000回叩いて丸く打ち出す中華鍋
山田工業所の中華鍋は、今から75年以上前、2代目・豊明さんの実父の創業者が廃材のドラム缶を切り出し、それを叩いて丸くし、鍋にして卸したのが始まりでした。一枚の鉄板を叩き出したもので、熱伝導の安定感・軽さに優れており、規定サイズのものしか作れないプレス中華鍋などに対し、山田工業所はあくまでも職人技が光るアナログ製法なので、料理人ごとの細かいオーダーにも対応することができました。 これらのことから横浜中華街で絶大な支持を得ることとなり、その存在が多くのメディアで取り上げられるようになり、さらに一般にもその名が知れ渡るに至ったものでした。 3代目・憲治さんはこう言います。 「現在は機械を使って、1枚の鉄板から5000回以上を叩き中華鍋にしていますが、基本的な『叩き出し』は先代からの技術のままです。プレス製法の中華鍋は、鉄の面が圴一で、結果的に火の通りに時間がかかります。これに対し、当社の中華鍋は、叩き出す際、意図的に鉄の面に細かい点と点を設けるようにし、火の通りが圧倒的に良くなるよう工夫しています」(3代目・憲治さん) 実際に工場内を見学させてもらいました。巨大な1枚の鉄板を規定サイズに切り出した後、機会を使ったガンコンガンコンと叩き出し、細部の曲げや錆止めなどを経て完成(出荷待ち)となるわけですが、この工程の随所に複数の職人が作業を行っています。皆さん、職人であることには変わりないですが、とても親切に取材に応じてくれたのも印象的でした。 聞けば「仕事は楽しくやらなくちゃいけない」というのも山田工業所の社風なのだそうです。 「なるべくなら『嫌な会社』にしないで、『楽しい会社』にしたいと考えているので。仕事は和気あいあいとやるのが一番ですからね。ただ、今は厳しい時代になりましたよ。昔は楽しく、従業員同士が信頼し合っていれば、軽く冗談でひっぱたいたりするようなこともコミュニケーションのひとつでした。でも、そういう冗談でも、すぐ批判を浴びちゃうんでね。残業もさせられなくなっているので、今は1日あたりの中華鍋の生産も限界があるんです。だから、結果的に皆さんにお待ちいただくしかない状況になっています」(2代目・豊明さん)