ロナルドとドナルド:川村雄介の飛耳長目
日本人の多くが見過ごしがちな米国大統領選の重要要素
対日関係では、レーガンは中曽根康弘総理との関係を重視して「ロンヤス」と呼び合った。産業スパイ事件や円ドル問題、半導体摩擦など経済面では非常に厳しい関係だったが、表向きは日米蜜月が演出されていた。トランプの第一期には安倍晋三総理が巧みに友好関係を打ち立てていた。表面的な信頼にとどまらない印象を与えたものである。 石破茂総理はトランプと良好な関係を構築できるのだろうか。メディアの多くは石破氏の外交デビューの様をやゆし、そのセンスを不安視する声が大きい。半面、意外に上手にやれるのではないか、という見方もある。総理がトランプと同じプロテスタントのクリスチャンだからだ。 日本人の多くが見過ごしがちな米国大統領選の重要要素が宗教である。大統領は就任式で聖書に手を置き、欧州と比較しても宗教、特にキリスト教が重視されている。これまでの大統領は、カトリックのケネディとバイデンを除いてすべてプロテスタントだ。 レーガンは強い米国への憧れを「丘の上の輝く家」と表現したが、その原点はマタイ福音書にある。企業統治の世界で、日本でも何気なく使っている米国発のミッション、パーパス、ウェルビーイング等々は、聖書に登場する言葉でもある。留学時代の私のホストファミリーは若夫婦がプロテスタント、アイルランドにルーツをもつ祖母はカトリックであった。 日本大学の松本佐保教授によると、米国の宗教人口はプロテスタントが55%、カトリックが25%だそうである。レーガンやトランプを支持した層の多くが、プロテスタントの福音派だったといわれる。家庭に仏壇と神棚が同居し、結婚式は教会で葬儀はお寺でという日本人の多くとは感覚が違うはずだ。 となると石破氏は有利な立場なのか。そう簡単ではないだろう。トランプがどこまで敬虔な信者であるかは、彼のこれまでの行状や言動からみるといささか怪しい。何よりも新大統領は、ディール重視の現実主義者かつ向背定めないタイプであることを肝に銘じておく必要がある。石破氏がトランプと対峙するためには、冷徹な現状認識と揺るぎない国益重視の姿勢しかないと思う。 川村雄介◎一般社団法人 グローカル政策研究所 代表理事。1953年、神奈川県生まれ。長崎大学経済学部教授、大和総研副理事長を経て、現職。東京大学工学部アドバイザリー・ボードを兼務。
川村 雄介